SRSが目標というトランスジェンダーは多い。しかし、女性になってからも人生は続いていく。そこに精神的な落とし穴がある。
メンタルが低調になる原因の1つがダイレーションの大変さだ。先生や手術方法によって多少の差異はあれ最初の1か月は一日に2回、そのあともしばらくは1日に1回、となかなか回数は減らない。一度にかかる時間は約2時間程度。そこで諦めてしまうものも少なくない。しかし、ダイレーションは医療行為でありながら性的な部分を含むため他人に相談もしづらい。
なんとかダイレーションを楽にできないか?ほかの人はダイレーションをどう行っているのだろうか?乙女塾では定期的にレポートをお届けしていく。
今回は「健康的な性別移行を目指して」の希さんに話を聞いた。
――なぜ、ダイレーションについて研究するようになったのでしょうか?
私は年齢のこともあり負担の少ない造膣なしのSRSを受けました。同時期、造膣ありの手術を受けに来た日本人の方のお一人は、ダイレーションの激痛で泣いていました。
そこでなんとかならないのか考えるようになりました。
2020年から話題になったSRSのPPV方式はダヴィドフ法という産婦人科の技術がもとになっているのです。これまでSRSの技法というのは形成外科由来で産婦人科の技術を導入してこなかったのです。ダヴィドフ法は半世紀も前からある技術です。つまり、新しいものではないんですね。
そこで産婦人科から学ぼうと考えました。
――産婦人科との横断がそこまで行われていなかったというのは衝撃的です。
産婦人科といえば、膣欠損(ロキタンスキー等)の女性のケースがあります。同じように造膣手術を行います。
日本の産婦人科では腟が塞がるのを防ぐため、造腟用プロテーゼを術中に腟に入れ、入院中腟中に留め置いて(留置して)使うということを知りました。退院後もダイレーターの代わりに継続して使う方もいます。
――留置式はトランスジェンダーに使えないという噂もあります。中が細菌でいっぱいになるという不安からです。大丈夫なのでしょうか?
実際には、「日本国内で、200例以上に使用されていますが、今のところ問題 は出ていません。」と、ある留置式ダイレーターの説明に書かれていましたが、プロテーゼを頻繁に洗浄されているロキタンスキーの方もいるので、洗浄で清潔を保つ必要があります。純女と違い自浄作用がないので、なおさらです。
そこで大事なのは膣欠損の女性はダイレーションを「一日何回行うのか」というのではなく、一日中入れっぱなしにしていて「いつ外すのか」がテーマになっています。ロキタンスキーの女性たちは「1時間プロテーゼを⼊れていないだけで縮んでしまう」という方や「20年も続けている」という声があるほどなんです。
――過去に元町のLUNAクリニック関口医師はダイレーションの手順のうち何割かはさぼっても問題がない。さぼることを前提に先生は教えているとおっしゃっていたのと比べると、その話は衝撃的です。つまり、それだけ維持は大変なんですね。
はい。まず、「ダイレーション」は拡張という意味です。大別すると機能的にはサイズを拡張するダイレーターと現状を維持するプロテーゼに大別されます。
造膣手術の後に直ぐプロテーゼ(MtFの場合いわゆる留置式ダイレーター)を入れておけば作ったサイズ、深さをキープできるので、初期のダイレーションによる痛みをかなり抑えられるのでは?と思います。この方式には実例や論文があがっています。
今後SRSを予定しているMtFトランスジェンダーの方は一つの手がかりとして主治医に相談してみてもいいかもしれません。人や状況によることもあるので、自己責任でお願いいたします。
――MtFトランスジェンダーが使うダイレーターは太さ別に何本かわかれていてプラスチック製のものが多いと思います。
現状では留置式として使う場合は、担当医と相談したうえで柔らかいシリコン製になると思います。
世界には、サイズを変えられるものもあります。
そこで「もっと工夫できないか?」と考えました。
タイでは「トランスジェンダーは膣口の柔軟性がないので奥が太くなっているタイプのダイレーターが使えないため、今のところ禁止なんです」とのことです。
そこで出し入れをしやすくするため。例えば、取り出す必要がある時には、端を冷やせば細くなり、挿入時には体温で温まって元の形に大きくなる(つまり、抜けないでおさまりが良い)。
-そのようなものができませんか?と、プロテーゼ論文を書かれている藤井俊策先生に話したところ、3Dプリンタで試作をしてくださいました。現状では、何個か素材を変えて試作いただきましたが、個人用の3Dプリンタでは限界があったそうです。
――ガモン病院も実際にダイレーターは新しいものを開発しています。しかし、まだまだ試行錯誤の状況なんでしょうね。
はい。なので、新しい取り組みをされる場合は、最新の、「★注意点」を再確認し、ご本人がよく納得の上で担当医とよく話し合ってください。成功を祈ります。
――たまにSRS後に膣をやぶってしまって修正になったという事例がありますよね。くれぐれも自己責任だということは理解しつつも、新しい取り組みにも期待したいですね。