MtFトランスジェンダーの悩みはたくさんあります。そのうち最も大きいのが声と言えるでしょう。
何故かと言えば、第二次性徴を終えて声変わりした声帯は元に戻らないからです。FtMトランスジェンダーの場合、男性ホルモン投与で髭が生え、声が低くなることが一般的です。しかし、MtFトランスジェンダーの場合は女性ホルモン治療をしても声は低いままなので、ボイストレーニングをする必要があります。
一方で医療で声の高さを変えることもできます。今回、乙女塾メンバーのゆーこが声の手術を受けたので、術前に色々聞きました。
ーー今の声でも綺麗だと思うんですけど、声の手術を受けようと思ったきっかけは?
今の声でも大丈夫じゃない?と言われるのですが、ふとしたきっかけで低い声が出ることはどうしても避けられなくて。朝起きた時、疲れた時、大きな声を出す時とか。そうしたときに小さなストレスを感じていました。
仕事柄人と話すことが多いのですが、このストレスを抱えたままはしんどいなぁ…と思い、声の手術を考えました。
仮に海外へ渡航できたとしても国内での手術を選んでいた
ーー声の手術は海外、国内と選択肢がいくつかあります。今回は京都耳鼻咽喉音聲手術医院を選んだそうですが、その理由は?
声の手術はタイ、韓国、日本国内の3択かと思います。
新型コロナウイルスの影響によって海外渡航はかなり厳しい状況ですが、仮に海外へ渡航できたとしても国内での手術を選んでいただろうと思います。
海外では声帯に直接手を加える手術が多く、また全身麻酔で行うため声の仕上がりはドクターにお任せとなります。他方今回受ける手術は甲状軟骨IV型といって、声帯には直接触れずに軟骨を動かす手術になるので声が出なくなるリスクは低いです。そして局所麻酔で行うため、自分の声を手術中にドクターと確認しながら決めることができます。
いずれにせよ一長一短な部分はあるかと思いますが、総合的に考えて症例数も多い京都でお世話になることに決めました。
ーーアニメの声優さんのような可愛らしく高い声を目標としている人が多いようにも思えます。
もちろん声を高くするのもありますが、私の場合は低い部分をカットしたいというのが主目的です。先生曰く「そういう目的の方は結構いらっしゃいます」とのことでした。
また「後で気に食わなければ元に戻すこともできますよ」ともおっしゃっていました。
ーー日本ではSRS後戸籍を変えていれば保険適用にもなります。ある病院では10万円もかからないそうです。海外では100万円程度かかるので10倍もの開きがありますね。
コストだけで決めることはしたくないですが、選ぶ際の重要な要素だと思います。今後保険適用の幅が広がっていくことを願っています。
手術は魔法ではない
ーー国内、海外問わず学会ではこれまで複数の病院が声の手術の発表を行っています。しかし、当事者の声を聞くと賛否があるようです。
賛否はありますよね。手術は魔法ではないので、それだけで可愛い女の子の声になるわけではありません。術後は沈黙療法(約3日間)の後、ボイストレーニングを行うことが必須です。
当事者でカウンセリングを受ける方の中には、手術について誤解を持っている方もいるかもしれません。私自身も先生から詳しく話を聞いてみて、初めて知る事が多かったです。また、術前からボイストレーニングをしていて良かったなとも感じました。
手術は「楽器」を用意してくれるだけ。継続した調律が必要
ーー声の手術は乙女塾のライバルではなくて、共に戦う同士というか(笑)。
良くも悪くも手術は「楽器」しか用意してくれません。結局は継続した調律が必要です。乙女塾のようなスクールがあって、術前・術後の手助けをしてくれる。そういった場所があることを知ってもらうきっかけになればと思い、今回手術に合わせて色々と取材も受けることになりました。
トランスジェンダーにとって「声」は悩みのうちの一つであって、その他にも容姿や仕事など人それぞれに悩みがあると思います。一つずつ悩みが減っていくことで笑顔になれる時間が増えていったら、それは素敵なことなんじゃないかなって。
はじめはひっそりと手術を受けようと思っていたのですが、話を聞きたい人がいるならばと情報を残すことにしました。お涙頂戴は個人的に苦手なので、明るく前向きな気持ちで声の手術とボイストレーニングに臨んでいます。
ーーありがとうございました。