4日、暴行罪に問われた浅沼智也氏の無罪判決(青森地裁)を受けての浅沼氏、TransgenderJapan(以下、TGJP)、畑野とまと氏の合同記者会見が東京都内の司法記者クラブにて行われました。
今回は、浅沼氏の上司に当たる須藤氏、弁護士の西脇先生、TGJP事務局長 村田氏、畑野氏の記者会見内容を全文記載致します。
待ち続けた職場
須藤氏:(何故、浅沼氏のことを信じて雇い続けていたのか)
去年、私は職場から少し脱出してたんですが、「浅沼くんから電話が行きますので」ということで連絡がありました。今しばらく役所っていうことで、私はそんなに重大なことだとは思っていませんでした。
逮捕されたらされたでいいから、ちょっと様子を見よう。実際に勤務時間内でのことではないので、ちょっと静観しましょうっていうことで、青森(県警)の方に行ったときにね、「本当にちょっとかわいそうだな」っていうことがありました。
浅沼氏にやっぱり戻ってきてほしい、私も頑張って支援しよう、スタッフ共々支援していこうねっていう。それでみんなで、職場復帰できるまで頑張ろうねという。(無罪判決は)もう本当にみんな大喜びで、私自身もありがたいと思いましたし、(西脇弁護士)先生方には本当にお世話になりありがとうございました。勉強になったことがたくさんありました。
弁護士からの解説:何故、無罪判決となったのか
西脇弁護士:
もちろん、性被害が実際にあったとしたら許されないことで、それはちゃんと突き止められなければいけないことです。反面、性犯罪は密室の中での2人の事件というのが多いので、冤罪と隣り合わせの種類の事件だと思います。ですから非常に慎重に扱わなければいけないはずなんです。
今回の事件の場合ですと、実際に事件があったとき(2023年3月)被害を訴えた女性というのは、事件後も全く部屋から出ることなく朝まで一緒に過ごしていたという事実があって、その後も友好関係を保ってずっと一緒に行動しているんです。
これが令和5年(2023年)の10月になって初めて周囲に性被害というのを訴え始めるんですけれども、実はその直前の9月からその女性と所属している団体(TGJP)との間でトラブルが発生している。そのトラブルの後に被害の申告がなされていて、それまでの間は何もなかったという時系列の時点でこれは不自然な事件なんじゃないのかっていうことをこれ捜査機関も気づくべきだったんだろうと思います。
女性からの訴えというのを受けて、それありきで捜査が進んでいる。今回は、最終的に無罪になったんですが、いくつか問題になった理由があったんです。一つが、女性の供述と矛盾する写真です。女性が言っている「一連の事件がスタートしたんだよ」っていうビジネスホテルの部屋で撮った写真がこれですよと女性が証言をしたんですけれども、本当に女性が言っている通りだったら、左側に写っているはずの扉が右側にあります。
そこから女性の言っている部屋じゃないっていうことがわかって、「動かぬ証拠だ」というところから「供述の信用性が崩れた」というのが今回の事件の入口だったんです。ということは、その写真がなかったら、冤罪のままだったかもしれないという事件です。
単純に浅沼さんと女性の言い分どっちの方が信用できるかってだけで比べていくと決定的なものがなくて、女性の方かもしれないなって話になってしまった恐れもあった。そういった証拠があったという部分、一連の経緯が不自然であるという部分を裁判官の方も丁寧に認定していただいて最終的に無罪判決になりました。
今回は、直接実刑ってことはなかなかない事案です。そうすると、実刑になるわけじゃないんだから、早く認めた方がすぐに出られてるんじゃないかっていうふうなことを浅沼さんに言ってきます。「認めちゃえば楽になる」、そうかもしれないと思ってしまう人もいる。そこで浅沼さんが「絶対に自分は間違ってないんだ」と貫き通した結果、今日があるんだと思います。もしかしたらこの世の中にはそこでくじけてしまって、冤罪のままという人もたくさんいるのかもしれないです。特に2人きりの事件の場合というのは、そういったことも感じました。
TGJP事務局長村田氏から
村田氏:
本件に関し、簡単に団体の立場で話をしていきたいと思います。まず、今回の事件の特徴なんですけれども、うちは東京トランスマーチという、日本で初めてトランスジェンダーにフォーカスを当てたプライドパレードを基軸事業としてやっている、トランスジェンダーがよりこの日本社会で快適に暮らすことができるように、相互サポーティブな社会にできるようにという活動をしている団体です。
この基幹事業である東京トランスマーチ2023が延期に追い込まれたというのが、本件の団体としての最大の被害です。今回A氏やその周りの皆さんのやり方の特徴というのが、この後お話します。畑野のとA氏の間のFacebookでの意見の違いみたいなところの問題の話と、いわゆる浅沼による(性暴力)の話をごちゃまぜにしながらトランスジェンダージャパン(TGJP)という団体を二次加害化していたということに特徴があります。
さらにSNSの発信の中で「TGJPの性暴力」「TGJPの元代表による性暴力」ということさらにTGJPという単語を強調したことからも、この判決要旨の8ページにあります「団体T」、これは私どもの団体でございますけれども、団体との対立を背景にしていると考えることが可能であるから、それに団体の共同代表が巻き込まれた可能性があるというこの判断は、この1年半対応してきた感覚に合致するところでございます。
トランスジェンダージャパンは、ジェンダー平等を目指す団体です。性暴力というものについてもちろん根絶を目指していく団体です。しかしながら、このような性暴力という被害者性を悪用するような形のことは、これまで、現在未来にわたって、性暴力の被害に遭い、勇気をもって声を出していくという人たちの行いを消費し、踏みつけ、さらにその信用性を失わせていくものだ、という点で大変許されないと考えております。
今、トランスジェンダーを巡る状況は国際的にもアメリカでドナルド・トランプ第2期政権が始まって顕著ですけれども、ここ日本でもトランスジェンダーを巡るバックラッシュの状況が大変苛烈になっております。そういう中で、このような事実ではない性暴力の案件で、日本のトランスジェンダーコミュニティ、これはその当事者の総体です。さらにその中で社会運動にコミットしているクラスターの中で分断が起き、力を合わせるべきときに、力合わせられない状況が作られたということが課題であり、トランスジェンダージャパンは本来の業務をしながら、この状況の改善をこれから進めていきたいと考えております。
発端となったFacebookでの畑野氏とA氏の言い争いについて
畑野氏:
私自身は1990年代後半からトランスジェンダーの活動をしています。今回の事件の発端は、私が書いたFacebookの本当に他愛のない投稿でした。今回、被害を訴えたAさんが、当方に対してコメントを最初に入れたんです。そのコメントに対して、最初は何を書いているかわからないけれども、他愛のないことだろうと思って、そのコメントに返信していたんです。けれど、何かすごく逆上した感じの長文コメントが寄せられるようになって、私は内容を理解ができなかったので、いいねだけ送って放置するという状況でした。
元々、Aさんと私の関係っていうのは2000年代初頭からすごい長く同じような活動をしていました。私がAさんがやっている団体にも所属していたという経緯もあります。
そこであまりにもわからないので放置をしてたんですが、今度はTGJPのメールアドレスの方に「畑野が対応をしてくれないけどどうなってるんだ」とか「いつまでこんなやつを代表にしているんだ、畑野やめさせろ」みたいなメールが連日連夜来るようになるんです。本当に私としてはすごいプレッシャーを感じるようになって、悪いけれども私が直接対応できないからということで、村田の方にメールの方の返答を頼んだり、うちのメンバーのサリーであるとか他のメンバーに対応を頼んだりとかしてですね、これがより良いAさんの怒りを買います。Aさんの言葉を使うとですね、村田に対して「お前は畑野の奴隷か」とかいうふうな言葉を浴びせるようなことがあって本当にちょっと尋常でない状況が起きていたんです。
そんなやり取りを事務的に対応していたら、10月7日にとあるLINEグループに「私はこれまでFacebook問題、Facebookの投稿に関しての話をずっとTGJPとやり取りをしていた」と、あえて何についてやり取りをしていたということを書かないで、「私はTGJPと長い間やり取りをしていたのにも関わらず、一切応じてくれなかったのでここで私は性被害の話を告発したいと思います。トランスジェンダージャパンはひどい二次加害がある」っていうような感じで書き込みをされてしまいました。
最初は、誰が性加害をしたのか書いていませんでした。そこで疑われたのは私なんですね。トランスジェンダー女性が性加害を行ったという図が、炎上させるのにはマッチしていて、とある団体が5W1H(誰が・いつ・どこでなど)がない形でTGJPが性加害を行ったと書き込みをします。トランスヘイターにとっては、「やっぱりトランスジェンダーは信用がない」、「トランスジェンダー女性と言ったって男性じゃないか」みたいなコメントが溢れました。これが浅沼が投稿するまで続くんです。私もまた浅沼も何度か自殺を試みるぐらい、かなりつらい状況に追い込まれてしまいました。
もちろん、不同意性交、性的なことに関しては、毅然とした態度で臨むべきという考えではあります。ただ、特にインターネット上でこういう話をするときにまさに真実の相当性、何にもよくわかってない一方的な話だけを聞いて、誰かを責めることの危うさっていうのは本当に多くの方に知ってほしい。つらい思いをした人が非常に多いと思うので。
今後、名誉回復の裁判などを行うのか?
浅沼氏:
検討しております。
(編集部より)どうしてもトランスジェンダー、とりわけMtFトランスジェンダーに関しては個々の主張が強く、組織的な動きが行われない実情があります。今後トランスジェンダーが再びトランスマーチ等の活動を通して大きな輪になることを切に望みます。