教員として働いている私が現場で感じることの1つに、「(文科省がだした)性同一性障害の児童・生徒に配慮せよ」という通知は学校現場で周知されていないがあります。
もし、何のこと?と感じた方は前回の記事をご覧ください。
それを覆すかのようなことがおきました。私の勤務している学校では、校長が定期的に研修用の資料を業務用メールで送ってきます。内容はさまざまですが、今回は「学校からあらゆる差別をなくそう」というものでした。もちろんLGBTQ+にも触れています。うちの学校は、トランスジェンダーにも優しくできるのではないかと希望が沸いてきました。その資料を抜粋・要約して紹介しようと思います。
「教育現場における差別」
・差別はできれば守りたいモラルではなく、日本国憲法で明瞭に禁止されています。
・基本的人権として現在問題とされていることには、障がいやLGBTQ+、民族などがあります。教員は、自らの言動を振り返り、「差別をしない」教師として、生徒達に「お互いに差別をしない人間関係」を示していきたい。
差別とは何か
(1)日本国憲法( 第11条・第14条)と差別の禁止
① 基本的人権を侵すような差別行為は憲法に悖る行為です。
② 差別は権力を保持する側、権勢の大きい側の小さい側に対して問題です。
(2)学校制度における教師と生徒の関係性
① 学校場面においては、児童・生徒よりも教師に権威・権力が与えられています。
⇒ 教師は児童・生徒を差別し得る存在であることを自覚しなければなりません。
② 教師が、障がい者やLGBTQ+などを題材に児童・生徒を貶めるるのは差別です。
⇒ 日本は斉一性が高いので「多様性」について理解を深め、自覚する必要があります。 ⇒ 多様性に対応できる時代に合った指導・支援体制、校則にしていく必要があります。 ⇒ 本人の意思では変えられないことを、無理強いすることは基本的人権の侵害です。
(筆者注) 男の子らしくすることができないということは自分の意思では変えられないので、強制されれば人権侵害となると解釈できる。
(3)差別が起こる場合の人間の心情
① 人をカテゴリーで簡易的に捉える。 ⇒ ✕「男らしい」✕「女らしく」
② 言った側が単なる区別のつもりでも、本人が不快に感じれば差別になり得ます。
マジョリティとマイノリティ
(1)マジョリティとマイノリティ
① マジョリティとは本来は「多数派」を意味するが、強い発言力を持ち優位な立場の人たちとも言えます。ある状況について「気にせずにすむ人々」という捉え方もあります。
② マイノリティはマジョリティの対義語でれ、「少数派」・「少数者」を意味します。
⇒ 例えば、社会における様々な機能(電車の自動改札など)は右利き仕様になっている。 左利きの人は不便さを感じる場合が多い。不便さは右利きの人にはわからないことが多 い。この意味で、「左利き」の人はマイノリティと言えます。
(2)学校現場におけるマジョリティとマイノリティ
① 外国にもルーツがある児童生徒をジョリティの児童生徒と同様に扱うとフェアではない指導になってしまいます。
② マイノリティを抑圧する仕組みを理解し、自他の言動を振り返り、協働することでマジョリティからの変容は可能である。
⇒ 特に学校の教職員は「お互いに差別をしない人間関係」を示す立場であることを常に意識して行動する必要があります。
マイクロアグレッション
(1)マイクロアグレッションとは
有形力の行使としての身体的な暴行ではない差別的言動のこと。
(2)マイクロアグレッションの例
① 言葉による脅しや相手を指弾して威嚇する等の意図的な攻撃行動
② 相互行為に埋め込まれているもので、ステレオタイプや無礼さ無神経さ等
⇒ 加害者に自覚がないことが多い。
③ 有色人種、女性、LGBTQ+といった特定のグループの人々の心の動きや感情、経験を無視した り、否定したり、無価値なものとして扱ったりする。
アンコンシャス・バイアスとは
(1)アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)
無意識の偏ったものの見方、無意識の思い込み、無意識バイアス等と表現される。誰もが潜在的に持っている既成概念、固定観念となる。「全員にとって正しいもの」「実態に即したもの」とはいえない。
(2)アンコンシャス・バイアスの種類と例
① 正常性バイアス(同化性バイアス・同調性バイアス)
② ステレオタイプバイアス
性別、世代、学歴といった属性ごとに特定の特徴があると判断し、多様性を否定する。
③ 確証バイアス
自分の信念や価値観、仮設などの正しさを証明する情報のみを集め、反証となるデータや反対意見は無視・排除する姿勢。
④ 集団同調性バイアス
所属する集団内での常識や主流となっている考え方に同調すること。また、周囲にも同調するように強いること。
「みんなが言っているから…」 「ずっと、こうしてきたから…」
(3)アンコンシャス・バイアスを解消するために
① 決めつけない・押し付けない ⇒ 決めつけずに相手を「尊重する」心を持つ
・決めつけ言葉を使わない 「ふつう」はそうだ。こうある「べき」だ。
・「自分の中にも自覚していない偏見がないか」と自分に問いかけることが大切です。
学校におけるアンコンシャス・バイアス
(1)好意的差別発言
「女子なのに数学(理科)が得意なんてすごいね!」と声を掛ける。
⇒ 「女子は数学(理科)が苦手」というステレオタイプバイアスに基づきながら、一見、好意的に聞こえる発言をしている状態。
(2)隠れたカリキュラム
① 理科の授業では、実験の操作は男子、記録は女子というように生徒間の役割分担が自然とできているので任せている。
② ある部活動で男子はプレーヤーで女子はマネージャー。
⇒ 学校教育の中で意図せず教員から伝達され、生徒が体得している価値や態度のこと。
結びにかえて
この校長からのメールに従えば、トランスジェンダーの生徒にも良質な指導ができるような気がします。もちろん、トランスジェンダー特有の悩みを理解できるかという問題が大きいので、不適切な指導になる恐れはあります。しかし、マイノリティーへの差別をしないという理念を持っているということには心強さを感じます。
もちろん、このメールは校長のパーソナリティーに依存している部分が大きいので、何処の学校でも同じようなことが周知されるとは思えません。とはいうものの、希望の光が見えてきたのは確かです。