学校はトランスジェンダーに優しくなったのか?現場の視点から

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    乙女塾

はじめまして。学校関係のしごとをしております、ゆりと申します。今回は私の勤務先である学校、そして皆さんも小中学校…と育ってきたであろう学校とトランスジェンダーについて少しお話をさせてください。

今年3月、石川県津幡市や愛媛県四国中央市の報道などで「中学校の制服でジェンダーに配慮、男子でもスカートを選択可」と伝えられました。

教科書にLGBT+に関わる記述が含まれるようになったり、高校の入学願書から性別欄がなくなったり、学校もトランスジェンダーに配慮するようになったと思える状況が出来つつあります。でも、本当に学校は変わったのでしょうか。学校内部からの視点も含めて考えてみたいと思います。

教科書は変わった

令和5年の教科書検定では小学校の教科書でLGBTQ+などを扱ったものが2点から10点に増えるなど、明らかに変化してきています。

令和4年度から使われている高校公民科「公共」の教科書のなかには、18歳(成人)になって出来ることの例として、結婚や選挙の投票とともに「性別の変更」が記載されているものがあります。これは。教員に対して性同一障害特例法について説明するよう求めていると思わせるものです。実際に授業で扱われることがあるようで、隔世の感を覚えます。

しかし、そういった記述のある教科書は少数にすぎず、昔ながらの教科書が使われていることが多いのです。学校の教育課程を定めた学習指導要領にはいまだ「性の多様性」についての記述はなく、教科書でLGBTQ+などを扱うことが義務づけられているわけではありません。

指導上の「配慮」を求める指針は示されている

平成27年に文部科学省は「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を全国の教育委員会に出し、翌年には教職員向けの周知資料も作成されています。この通知は支援の事例を次のように示しています。

・自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める。
・標準より長い髪型を一定の範囲で認める(戸籍上男性)。
・更衣室 保健室・多目的トイレ等の利用を認める。
・職員トイレ・多目的トイレの利用を認める。
・校内文書(通知表を含む。)を児童生徒が希望する呼称で記す。
・自認する性別として名簿上扱う。
・授業体育又は保健体育において別メニューを設定する。
・上半身が隠れる水着の着用を認める(戸籍上男性)。
・補習として別日に実施、又はレポート提出で代替する。
・運動部の活動自認する性別に係る活動への参加を認める。
・修学旅行等1人部屋の使用を認める。入浴時間をずらす。

令和4年に文部科学省は生徒指導の指針となる「生徒指導提要」を改定しました。「性的マイノリティ」に関する課題と対応という項目が設けられ、「性同一性障害に係る児童生徒については、学校生活を送る上で特別の支援が必要な場合があることから、個別の事案に応じ、児童生徒の心情等に配慮した対応を行うことが求められています。」と記述しています。このほか、県独自に教員向けのガイドブックを作っているところもあります。

文部科学省の通知は周知されていない

岡山大学が岡山県内の学校を対象に行った調査によると前出の文科省通知「知らない」と答えた校長が約2割におよび、「読んだ」との解答は41.6%です。養護教諭ですら読んだのは46.8%に過ぎません。

私は学校に勤務していますが、このような文書が校長から示されたことはありません。周囲を見回しても、これを知っている教員は皆無です。文科省から文書は示されているのに周知されてはいないのです。学校は世の中でも特に保守的な空間で、時代の変化に対応できない教員がいるのも事実です。平成25年と古い調査ですが、性同一性障害に係る児童生徒に対応したと文科省に報告された事例は全国で606件に過ぎません。

結びに変えて 希望はある

確かに、「学校は変わっていない」と言いたくなることは多いのです。しかし、性別違和を学校に打ち明ける児童・生徒はごくわずかです。児童・生徒が何も言わないので何も対応しないという側面が大きいのです。

でも、児童・生徒が配慮を求めれば対応する枠組みは出来ているのです。

学校は役所が出した文書には従うし、大半の教員は児童・生徒の利益を第一に考えています。当事者が可視化されてくれば、学校も変わるように思います。いや、変わって欲しいというのが当事者としての切なる願いです。

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