SRSや豊胸に限らず手術をするときに必ず「術前術後は女性ホルモンを止めてください」と注意されることがあります。その理由は何故なのでしょうか?
今回はNAOの豊胸の主治医でもある南クリニックの南先生に聞いてみました。
(取材日:2023年5月、聞き手:NAO)
(乙女塾運営部、以下略)ーー手術をするときに女性ホルモンなどの薬をやめるのは何故でしょうか?
(南先生、以下略)
血栓のリスクがあるからです。勘違いしないでほしいのが怪我をしたり手術をすると血が出て止まるときに“必ず”血栓はできます。だからどんなものでもリスクは0%ではありません。それでも、血栓はできても普通はとかす、壊す力もあるので問題がないのです。
(血栓のイメージ図)
ところが、女性ホルモンなどの薬は血栓ができやすくなってしまう。例えば、血栓を壊す力が低くなれば血栓はそのまま血流に乗って、心臓や肺に行ってしまいます。
気を付けたいのが心臓、肺、脳などに行ってしまう場合です。命を奪うことになりかねません。
ーーそれでは、患者側としてはどんな薬をやめればいいのでしょうか。正直、手術の度に言われるのですが、医師によってダメな薬や止める期間に違いがあります。
女性ホルモン系は止めたほうがいいと言われています。同じく(男性ホルモンを抑えることに関係がある)脱毛を抑える薬(フィナステリド、デュタステリド)や育毛剤(ミノキシジル内服)なども止めたほうがいいという医者が多いです。
ホルモン系以外だとアスピリン、ユベラ、トラネキサム酸などを私はあげています。
ーー私はユベラ、トラネキサム酸を知らずに術前に飲んでいたことが1度ありました。今考えるとゾッとします。
同じ薬でも投薬量が関係してきます。美白用途で飲むトラネキサム酸を1日6錠とか飲む人がいますが、それは止めたほうがいいです。ただダメと言われている薬でも、市販ベースで1日4錠ぐらいなら飲んでいても問題にならないことが多いのです。
ーー確かに1日1錠でした。それはほっとしました。逆に患者側として術後に気を付けることはありますか?
まず、侵襲が大きな手術の場合ほど気を付けたほうがいいです。「侵襲が大きな」というのはたくさん出血がでるとか手術の規模が大きい時間がかかるものという目安で考えてもらえるといいかもしれません。
同じ豊胸でも100ccより200ccの方が侵襲が大きくなります。ただし、心臓や肺に近いから上半身の脂肪吸引や胸の手術がリスクが高いか、と言われると、そうではありません。実は下半身のが怖いんです。
SRSは要は骨盤周辺の手術です。リスクが大きい下半身になります。よく問題にあがるのが足(太もも)の脂肪吸引です。理由は、下半身の方が、血液を上半身へ戻す勢いが弱く、血栓ができやすいばかりか、直接、心臓などに流れてしまうことがあるためです。特に注意が必要です。
ーー当事者は人生を変えたい一心でSRSするものも多いです。その場合、合わせてFFS(顔の女性化手術)や豊胸と2,3の手術を組み合わせる人たちもいます。
2つ以上の手術を同時に行うことは、侵襲が大きくなります。本当は1つの手術が終わったら一カ月は最低空けて次の手術をして欲しいです。
ーー患者側として血栓ができたと感じるサインや対処法はあるのでしょうか?
足の裏が痛いとかがありますと、それが血栓ができ始めたサインの1つと言われています。
もし、血栓ができたと感じましたら、医療機関へすぐに連絡してください。医療ではまず点滴を行い(血栓を)溶かすことを試みます。もし、良くならない場合は血管造影剤を使い、場所を特定してから除去手術を行うことになります。いずれにしても時間勝負です。
ーー術前に血栓ができやすいのかな?とかそうしたことはわからないのでしょうか?
術前には必ず血液検査があります。しかし、この血液検査は手術に体が耐えられるのかということを確認するものです。
ーー体力的な見立てということでしょうか。SRSでも健康状態が思わしくないといってタイの病院から帰らされるケースがあります。あれは当事者にしてみれば悔しいでしょうが、医療的に正しい判断なのでしょうね。そう考えると、先生がメインでやられている成長再生豊胸はそういった意味でリスクの少ない手術と言えるでしょうか?
成長再生豊胸は、注射することで胸に少しずつ脂肪を増やす方法です。この方法ですと、手術ではないので、リスクが少ないと言えると思います。
ーーありがとうございました。
京都第二赤十字病院形成外科勤務、大手美容外科院長を経て1997年 南クリニック開業。創業以来、豊胸に力を入れている。注射で豊胸を行う「成長再生豊胸」を海外の学会でも発表。