以前、渋谷区で開かれていたLGBTQ+に関するイベントで印象的な内容があった。それは「ダブルマイノリティ」という単語だった。
トランスジェンダーのように性別の悩みを抱えている人は性別以外にも「精神障害(精神疾患)」や「発達障害」だったり何かしらの問題をもう1つ持っていることが多いといわれている。それらを「ダブルマイノリティ」と表現していたのだ。
ただでさえ性別の悩みによる「生きづらさ」を感じていたり「就労が困難」といった問題に直面する中で、ダブルマイノリティによって人生の難易度が跳ね上がる。そのような場合、どうすれば良いのだろうか?
今回は発達障害の人たちへの就労支援を行っているディーキャリア西日暮里オフィスの菅原和臣さんに話を聞いた。
(聞き手:西原さつき、NAO)
ーー(乙女塾、以下略)まず、「発達障害」に対する就労支援を行っているということですが、発達障害とはどういったものでしょうか?
菅原(以下略) 発達障害と一口にいっても大きく分けて3つの種類があります。ASD(自閉症スペクトラム)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)です。
これらは、心の病ではなく先天的な脳機能の障害と言われています。大事なことは知的に何ら障害があるわけでも、見た目で判別がつくものでもないということです。
具体的な特性としては「忘れ物が多い」「こだわりが強く融通がきかない」「片付けや整理整頓が苦手」「気が利かないと言われる」「相談が苦手」などがあります。
――「発達障害」は先天的ということですが、メカニズムはわかっていないのでしょうか?
はっきりとした要因はわかっていません。先生によっては、遺伝的なところとか環境的なところが原因ではないかと口にする人もいます。
――乙女塾ではこれまでトランスジェンダーの就労支援として交流会を開いたり、外部団体のイベントに協力したりをしてきました。その中で生徒さんの中には発達障害を持つ人も少なくないように思えました。
「ダブルマイノリティ」といわれる言葉を聞いてすごく共通の感覚を持ちました。
発達障害の方は診断のついている人・いない人含めてなんらかのこころの病気を持つ方が多いんです。我々はそれを「二次障害」と呼んでいます。
それは生きづらい・働きにくいとか、なんか人生うまくいかないんだよね、というところで二次障害が起きます。特にうつ病、双極性障害といった疾病として表れやすいです。
――実際に御社の就労支援を受ける方はどのような人が多いでしょうか?
20代から50代までがいます。コアはやはり20代、30代で男女の比率は半々ぐらいです。
義務教育や高等教育のうちは学校や先生側が面倒を見てくれます。ところが、大学とか就職となると、誰かがそれを担ってくれるわけではないのです。
その時に「なんでうまくいかないんだろう?」となって気づく方が多いです。発達障害は自分自身での認知が難しいんです。物心がついた時から特性と生きているので、それが当たり前になっています。分かりやすく表現すると、空気が読めない人と言われてしまいます。
――就労移行支援とは具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?
具体的には90分単位でカリキュラムにそったレッスンを受けてもらいます。空気が読めなかったり、注意を向けることが難しいのであれば訓練をすることで対処や配慮を身に着けることになります。
発達障害といっても十人十色なので、自分には当てはまらないケースのレッスンもあります。ですが、それも必要だと我々は考えています。他人の障害を知ったり、他の人の苦しみを知ることができるからです。職場で同じ仲間になるかもしれません。
通われる頻度ですが週5通う方もおりますし、ケースによっては、在宅訓練や週2,3の通所という方もいます。最大2年間、さらに就職後6か月間支援を受けられますが、平均して8-10か月で卒業される方が多いです。
――発達障害の方はレッスンを受けて改善されるのでしょうか?
病院ではありませんので何かを治療、改善する場所ではありません。自分自身のセルフケアや、自分でできる対処と相手に求める配慮を覚えて就職の面接などで他人に明確に伝えることが大事だと考えています。
――具体的にどのような就職先があるのでしょうか?
日本では一定の規模の事業者は、障碍者をある程度の割合で雇用しなければならないという決まりがあります。
一般的には障碍者雇用としては軽作業や一般事務の仕事が多いです。
――(さつき)海外では発達障害は個性の1つとして見られているのか賞賛されるような風潮を聞いたことがあります。
はい、繰り返し述べさせていただきたいのは、知的な部分に障害があるわけではないことです。すごく知的だったり、何かに能力が特化している人が多いです。
――(NAO)社長の友達を見ていても発達障害だという人が多くいます。こだわりが強いというのは芯のある経営者、空気が読めないのは悪い流れを断ち切れるという特性にもなりえると思います。私もその傾向はありますが、心の中では(その後気まずくなることを)わかっていてもあえて空気を読まない発言を求められる場面は多々あります。
芸能人でも発達障害を明らかにしている人がいます。得意な分野にフォーカスがあたるとすごい人になりうるんです。
ただ、就労支援では困っているところに焦点をあてることで就労支援を実現していくというスタイルをとっています。
――(さつき)OLをやっていた時には、自分に働くことは向いていないんだと思いました。でも、自分の仕事への苦手なイメージが乙女塾で働くことによって変わりました。それまで無価値だった個性が、環境が変わったり、その特性が活かせるところへいくと評価されることってあると思います。就労が困難な生徒さんに能力や個性がうまく当てはまるところが見つかるといいなぁと思いました。
わたしたちは「凸凹が活きる社会を創る。」というテーマを掲げています。誰しもが得意なところ、苦手なところはありますよね。まさにそのさつきさんの言葉通りだと思っています。
父が高齢者領域のソーシャルワーカー(社会福祉士)、母が保育士の家庭に育つ。大学でソーシャルワークについて学び、社会福祉士を取得。特別養護老人ホーム 介護職や放課後子ども教室 児童厚生員、回復期リハビリテーション病院 医療相談員を経て現職。「たくさんの『初めて』に寄り添います。」