畑島楓が乙女塾の門をたたいたのは約1年半前のことである。それが今、彼女は蝶のように美しく、そして業界を代表する1人の女性として注目を浴びている。
彼女の素晴らしいところはその美貌に加えて、建築という自らの専門分野での華々しい活躍があることだ。トランスジェンダーに対して大きな壁となる就職活動もなんのことはなくやってのけ、次に目指すのは来年3月のミスインターナショナルクィーン(MIQ)である。彼女は今何を考えているのか、その気持ちを聞いてみた。
(聞き手 乙女塾なお、撮影 乙女塾山岸および本人の許諾による)
ーー女性を自分の中で感じ、トランスを決意した理由は?
楓(以下略) 中学生の頃から自分がGIDだということに気がついていました。自分が何者かを知ることができて嬉しかった気持ちと、自分には(トランスは)無理じゃないかという気持ちが葛藤していました。そんなときに乙女塾でさつきさんに背中を押されて、最後のチャンスだと思って踏み出しました。
ーーあれからたった一年半くらいです。確かラルカル(RAARの岡本さんが主催するイベント)で会った時に初めて女性の姿で渋谷だかどこかまで歩いたと聞いたのに…。行動が迅速だがトランスで重視したことは何ですか?
私は辛かったことや苦しかったことは表現しないように気をつけていますが、悩みはありました。特に、厳しかった家庭環境の中で家族に告白することや性別移行にかかる資金面での苦労などが大変でした。こういう悩みは人によって違うと思います。なので、本当に大変な方がいれば私に相談してきてほしいと思います。
ーー今、このタイミングでミスインターナショナルクィーン出場を決意した理由を教えて貰えますか?
これまで当コンテストはトランスジェンダーや異性装者の存在を認知させる上で大きな役割を果たしてきました。私は田舎で生まれ育ちましたが、そのような地方だとトランスジェンダーと呼ばれる方々が実際に生活をしているという感覚が都市伝説のような遠い存在に感じられます。
そういった方々を代表する勇気ある先人たちが国際的評価を受けることで、彼女たちの存在そのものが全国的にプロパガンダされることになりました。過去の出場者で特に有名なのははるな愛さんと西原さつきさんだと思いますが、そのような方々が脚光を浴びることで”トランスジェンダー”という存在が身近になり、私たちトランスジェンダーに対するあからさまな偏見や差別がここ数年で劇的に減るに至りました。本当に感謝すべきことだと思います。
ーー確かに私も子供の頃に初めて目にしたのは“ニューハーフを〇〇人集めました”のような番組でした。中には、はるな愛さんのような綺麗で声もかわいらしい方がいてそのように変われる方がいることはとても大きな衝撃でしたし、希望になりました。
はい。一方で、まだまだ課題は残されています。当事者の中には進学・就職や福祉、冠婚葬祭といったライフイベントであからさまでないにせよ偏見や差別に直面しています。
例えば、地方のある高校生が両親にに対して「大学からは女性として通いたい」というカミングアウトをしたところ、それならば「大学は行かなくていい」と言われたそうです。また、都内の大学に通う私の友人はカミングアウトしたことによって「前例がなく、職場で働いている状況が想像できない」という理由から内定取り消しを受けたそうです。
私が地上波の番組に出演した際に、”トランスジェンダーなのに大学に通っている(スタジオが感嘆する!!)”という解説を受けたこともありました。
ーー自分たちがその業界に身を置いているから“当たり前”になっているだけで、世間は意外と子供時代から変わっていないのかもしれませんね。
私が思うのは、「こういった対応は明らかに不当なようにも思われます」が、カミングアウトされた両親や職場が悪意をもって偏見や差別を目指していたとは考えられないということです。
ここに見られるのは、トランスジェンダーに対する「普通」というイメージの欠乏だと思います。社会に対して「普通」のロールモデルを供給することが唯一の解決策であるように思われます。LGBTに対する差別や偏見について非難するだけでは一時的な解決にしかならないでしょう。
ーーそこで自分が“先行研究”になろうと(笑)。
私は幸いにして、ごく普通の女性としての生活を手に入れました。8歳の頃に建築家になることを決心し、私も両親もそれ以外のことに対して関心がなかったからです。換言すれば、「建築家になる」という志の大きさに比べれば「女性になる」ということは(夢や目標ではなく)単なるコンディションの話に過ぎなかったということになります。だから、当然のように大学や大学院で建築を専攻しましたし、気がつけば建築の会社に就職を決めました。
一方で、この半年間に経験したLGBTに関する講演会やイベントを通して多くの当事者にお会いし、私が非常に希少性の高い存在であるということに気がつきました。多くの方々は「普通」を手にするために多大なる困難に直面しています。その困難を乗り越えるため「女性になる」ということが人生の夢や目標になっているような方々も少なくないと感じました。
そこで、私はこの数ヶ月の間、社会に対して「普通」のロールモデルを供給する方法について考えていました。数々のライフイベントで困難に直面する当事者の方々に、困難と闘うための武器を配ることになると考えたからです。
ーーそのためのミスインターナショナルクィーン(MIQ)出場?
はい。結論として私自身が「普通」のロールモデルとしてミスインターナショナルクイーンに出場するという選択を採りました。冒頭でお話しした通り、当コンテストはトランスジェンダーのプロパガンダに役立ってきたという実績があります。
ところが、これまでの出場者には女優や芸能人のような方々が多く、経歴などを拝見してもロールモデルとしては“特殊解”のような方々が多いと感じました。平たく言うと、「真似したいトランスジェンダー」ではなく「憧れの対象」もしくは「ずば抜けた超人」といった印象を受けます。そのような方々の功績に敬意を払いながらも、今年度は私が出場することで、普通のプロパガンダを実現していきたいと思います。
ーーまずは日本予選です。スケジュールはいつ?
前回の交流会で間違った日程をアナウンスしてしまったのですが、2019年1月17日木曜日になります。
ーー乙女塾一同も可能な限り応援に行こうと考えています。
ありがとうございます。応援があると非常に心強いです。
ーートランスジェンダーはできれば埋没して元・男性(女性)ということを言いたくないでしょう。美しい人がカミングアウトして表舞台で戦うのはとても勇気がいる事だと思います。それは今まで努力して磨いた美貌によってパスしていた生活をある意味で捨てることになるからです。楓さんがその中でミスインターナショナルクィーンという舞台を選択し戦うことになったのは同志として誇りに思います。
(次回に続く)
楓さんとの対談はこれに終わらない。彼女は高いファッション偏差値を持ち、さつきとは良く洋服を一緒に買いに行く仲。
次回はファッション交流会で話した内容も若干含みながら彼女のオシャレを解析する。