2024年8月29日、「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」の第5版が発表になりました。
ガイドラインとは、トランスジェンダーのホルモン治療や手術を行うときの指針となるガイドライン診断のことを言います。
日本精神神経学会の性別不合に関する委員会と日本GI(性別不合)学会合同による「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」の事ですが、いままで性同一性障害が対象だった第4版(初版2011年、最終改訂2018年)だったのです。その後、性同一性障害は診断対象名を「性別不合」に変わりました。
そこで、2024年8月29日、あらたに診断対象名を「性別不合」とかえた、第5版が発表になりました。
ICD-11の施行(2022年1月1日)から2年8カ月、ようやく、日本の医療現場から「性同一性障害」という病名が消えたのです。
「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」第5版主な改訂点
「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」 第5版の主な改訂点は次ぎの通りです。
1. 診断基準の改訂(DSM-5、ICD-11)への対応
2. 小児期における割り当てられた性への違和感に対する評価と対応
3. 精神科医療の関わりに関する改訂
4. ホルモン療法および二次性徴抑制療法における使用薬剤と用量用法の追加
5. 二次性徴抑制療法に関する改訂
乙女塾の生徒さんに関わりそうな点を中心に見ていきます。
実感する性別と割り当てられた性との間の不一致
これからの診断はICD-11 に基づいて行われ、「実感する性別と割り当てられた性との間の不一致」の確認が必要となります。この「実感する性別」とは当事者の内面の問題を含むもので、女装しているから、日常生活を女性として暮らしてるからといったことだけではありません。
また性別二元論にあてはまらない、ノンバイナリーも対象になることになりました。ようするに男性から女性へと極端な移行が必須ではない、あくまで現在割り当てられた性別への不一致というのも大きな変更点です。
SRSの条件
性別適合手術(SRS)をする場合、実生活経験(RLE)を、希望する性別での生活を当事者が望むスタイルでほぼ完全に送られており、この状態が後戻りしないで少なくとも1年以上続いていることと記述されています。
診断には精神科医だけでなく臨床心理士や泌尿器科、産婦人科もかかわりますが、主たる診断を行う医師は「日本精神神経学会が主催するワークショップおよび日本GI学会が開催するエキスパート研修会を受講していることが望ましい」と言う点も明記されました。
ICD-11では、性別不合が精神疾患から離れたのですが、引き続き精神科医のサポートが重要であるとのことです。とくに性別適合手術を受ける場合2名の合意が必要で、うち1名は認定医である必要があります。
しかし、日本GI学会の認定医は38人、このうち診断に関わる精神科医は15人。この多くが東京と大阪に集中している事を考えると、認定医や研修の機会を増やすことも課題になってくるでしょう。
小児期における割り当てられた性への違和感に対する評価と対応
2番目の「小児期における割り当てられた性への違和感に対する評価と対応」、つまり幼少期についての記述が追加されたのも特徴的です。
物心がついたばかりの彼ら、彼女らに、徹底的に寄り添うことを求めています。発達障害などの合併する疾患との兼ね合い、二次成長抑制剤の適切な使用など、この年代特有の懸念事項をページを大幅に裂いて説明されているのは印象的でした。この年代の治療方針が、そのままその上のユース層の治療方針にもひきつがれるのです。
ホルモン治療について
4番目のホルモン治療については、使用薬剤と用量用法についての言及が加わったことが特徴的です。これはGI治療の経験の浅い医療関係者から、トランスジェンダーにどんなホルモン治療を提供したらいいのかが分からないというと言う声に応える形で記述されました。
ホルモンの量についての記述だけではなく、何が女性化して・しないのかがきちんと一覧されています。
例えば、声の女性化はほとんどない、男性性機能不全は個人差が大きい、乳房の発達は3-6カ月ごろから見られるなどとまとめられています。これらの効能は日本の論文でしっかりと記述されていることは多くなく、ほとんどがトランスジェンダー当事者による口コミ情報が元でしたので、しっかりと資料化されたのは大きな進歩だと思います。
多様性が認められる社会になってきて、治療を希望する人が増えてきた一方、対応できる医療機関がすくないこと。国際的な動向もあり、日本でも要望しているのにもかかわらず、性別適合手術は保険適用になってるのに、ホルモン治療が保険適用になっていないと言う問題があり、それらに道をひらくために、この表が添付されたという点は印象深かったです。
まとめ
43ページになるこのガイドラインは、医学的なテキストとしては、比較的読みやすく、分かりやすいので、ぜひ一度ダウンロードして読んで見ることをオススメします。
ガイドラインのPDFダウンロード先:http://www.gi-soc.jp/guideline.html
残るは特例法こと「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の行方。当然改正の方向性は、このガイドラインの影響も受けると思います。次の改正ではガイドライン同様、「性同一性障害」は消え、「性別不合」に置き換わることになります。SNSやメディア、識者の講演会などで、さまざまな憶測が飛び交っていますが、願わくば、トランスが社会に迷惑をかけないようにという視点ではなく、トランスの人権とQOLを守る法律に変わって欲しいものです。
次の記事では、自由が丘にあるちあきクリニックの松永千秋先生による改正についての解説をお届けします。