前回の記事で明治大学が2015年に開催したALLY WEEKを通じて伝えたかった事やファッションとジェンダーについて同大学のジェンダーセンター長 田中洋美先生に伺いました。
「衣食住」と人間は言うけれど今度は住の話。ジェンダーと生活・家族についてのお話を引き続き田中先生に聞きました。
ーー海外のFacebookではまず性別が何十から選べるといいます。そのように従来の「男」・「女」の二元論だけでなく性別をグラデーションとして捉えようという動きがある中で、日本がジェンダーについて参考にすべき海外でのモデルケースはありますでしょうか?
お手本にすべきかどうかは別として、私は海外の大学で学んだこともあり、ヨーロッパをはじめ、世界各地の動向に割と興味を持っています。ドイツは最近、性別カテゴリーが増えました。2018年12月から「男」「女」「多様(divers)」の三つから性別を選ぶことができるようになったんです。
ドイツ以外にも「男」「女」以外の性別カテゴリーを持つ国は複数あります。オーストラリアやカナダ、デンマーク、オランダ、オーストリア、アジアだとインドやパキスタンなどです。
ドイツは同性婚も2017年10月1日から施行されました。その前から同性パートナーシップ法がありました。中には、レズビアンじゃないんだけども女性同士で仲が良い二人が一緒に暮らしたいし、仮に死んだら財産を相続できるようにしたいということでこの法律を活用している人がいるという事例もあると聞きました。
ーー確かに「家族」って血縁関係があってはじめて成り立つととらえがちですがそうじゃない形があるというわけですね。
異性愛的なカップルでしか家族を作れないと思いがちですが、アメリカの思想家ダナ・ハラウェイは、血縁ではない人や動物などを含む類縁関係を提唱しています(編集部注:著作『伴侶種宣言』に詳しくは掲載されています)。
ーー日本でも同性婚や渋谷区などが実施しているパートナーシップといった動きが広がっています。
そうですね。属性によって差別されない世の中になってほしいですね。
同性婚は実現すべきと思いますが、法律の専門家が指摘するように、性的指向によって差別されない法律を作ることも重要です。
ーー今度はミクロの視点から考えたいです。「mtfトランスジェンダー」に読んでほしいお勧めの本はありますか?
蔦森樹さんてご存じですか?90年代に本を出していた方で大学で教鞭もとっていたようです。蔦森さんの本を読んですごく感情をゆさぶられたというか。
例えば、『ジェンダーの社会学(岩波書店)』という本の中で筆をとっていますが、その章で、もともと角刈り無精ひげのマッチョなライダーだったこと、そしてどういう経緯で「女」になろうとしたのか、なっていったのかを記しています。例えば、声のピッチどのぐらいになった、肌や体毛の手入れをどうしたか、また、ある場所で座るときにどーんて座っていたのが、こじんまりと座るようになったとか、性別によって空間占有のあり方が変わるといったことも書いています。
蔦森樹著:『恋人と暮らす沖縄(ミスター・パートナー’s BOOK)』
子供を持つこと以外はほとんど意識で変えられるということがわかった、ただ本当にそれがいいかどうか悩んでいる、といったようなことも書かれています。
女性的なものの美しさは、男であるというだけでなぜ楽しむことが許されないのか?自分もその美しさを実践をしたい、と「女」になろうとするんですけど、自分がそっちにいっただけでジェンダーの社会構造を変えたわけではないという。
ーー私たちが企業さんとやり取りをしていると中性的な提案というのは良くされます。「ジェンダーレス」と「ジェンダーフリー」ってごっちゃになりがちなんですね。トランスジェンダーの多くは従来の女性的な可愛くて綺麗な物が好きで、「真ん中」が好きなわけではない。時代が追い付いてきたら今度は配慮されて(まずは)「真ん中」を提示される、という蔦森さんと逆の葛藤がありますね。性別移行中とかでどっちでも見れるようにという人はいます。しかし、それは全員が本当に望んでそうしているわけではないというか。
もう一つ、蔦森さんの書籍で忘れられないことは、「女」になっても異性愛とは限らない、ジェンダーアイデンティと性的指向は違うんだ、と気づかされたことです。
ーーそれは10年前、新宿二丁目ですら言えませんでした。女の恰好をしたら男性が好きだ、男に奉仕しろみたいな人は多かった。「LGBT」が良くも悪くもブームとなったり、ファッションで女装する人たちが「男の娘」としてとりあげられた良い面かもしれません。その結果、奥さんがいるけどトランスしたいということが言えるようになった。
蔦森さんはそれを1990年代に書いていたわけですね。
ーー今年は2020年で東京オリンピックが開催される年です。最後に、次回の明治大学ALLY WEEKは行われるんでしょうか?
ALLY WEEKは2015年に初めて開催した後は、毎年ではないんですが、2017年に第二回をやりました。
2017年はもう少し小規模でサロン的なものがやりたいということで小規模でアットホームな雰囲気でワークショップを行いました。それでも、学長や学生相談室長が参加しました。
また、ALLYを知ってもらうために様々な学部の教員の協力の下、数多くの授業でPRしたり、Twitterを使った発信キャンペーンをやりました。
今また、次をやりたいという学生がでてきています。実現すると良いなと思っています。
話を聞いた人:
田中洋美
明治大学情報コミュニケーション学部准教授、同ジェンダーセンター長(2019-2020)。博士(社会学)。現在はメディア、テクノロジーの社会・文化的側面について格差、ジェンダー、ダイバーシティの視点から研究。