MIQ予選を来週に控えた畑島楓。彼女は昨年11月の交流会でも自身のファッション感を語ってくれた。
トランスジェンダーの悩みの1つが洋服の選択肢が少ないということだ。体型的に着ることのできない洋服が多く、そもそもの選択肢が狭かったり、靴のサイズがどうしようもなかったり。トランス後僅か1年でそうした問題をどうやって克服していったのだろうか。話を聞いてみた。
(聞き手 乙女塾なお、撮影 乙女塾山岸および本人の許諾による)
――トランスジェンダーでぶつかる壁の1つが体型などで着れる洋服が少ないということだと思います。サイズ感についてどういう問題に直面したのかを教えてください。
男性特有の骨格や身長から、「適正なサイズが発見しづらい」
(*筆者注、アパレルのフリーサイズは基本的にMまたはSサイズ相当である)
――例えば、身長が高いことはモデル体型といって売りにもなりますが、当然標準的な洋服のサイズからは縦のサイズ感などで外れてしまいますよね。トランスジェンダーだと胸下が細くないのでそこだけサイズが合わなかったり・・・こだわる場合は肋骨を抜く人さえいます。
はい。大きい服を得意とした店舗ではマタニティ向けの商品が多く、
このような適正なサイズが発見しづらいという問題に追い討ちをか
――通販を使う方も多いですよね?
はい。試着せずに購入したり、オンラインで購入することが多かったのですが、実際に着るとデザインが合わなかったりして、結局着ることができずに悲しい気持ちになりました。店舗に行きづらいということと体格に合ったサイズが見つけづらいということが二重で問題になります。
――実は代表のさつきも丸井とのインタビュー内に記載しておりますが通販で沢山の失敗をしてきたといいます。ではどうやって解決していったのでしょうか?
最初はインポート系(輸入ブランド)の古着屋に行くことが多かったと思います。
――実は私も当初からデザイナースブランドの古着屋を多く利用していました。私が元々パリコレやNYコレクションに出てくるブランドが好きだということもあるのですが、モード系の世界では、レディースの服をメンズが着ることは当たり前に行われています。メンズの洋服は非常に大きく、またレディースとメンズの差が少なく、中にはサイズ感以外は変わらない同じアイテムなのにメンズの方が価格が高かったりするためです。
古着屋にはショップ店員が話しかけてくるタイプのものと全く話しかけてこないものと二種類があります。前者の場合はお友達のようにコミュニケーションを取ってくれる場合が多いので、MTFの友人だと思って店員に全てカミングアウトします。もしくは、 カミングアウトせずにパスしちゃって、体格に合った服探しで悩んでいることだけを伝えます。古着屋の店員にはファッションを学ぶ専門学生の方が多いので、彼女たちの能力を借りて私に似合うコーディネートを一緒に考えてもらいます。後者の店員が全く話しかけてこないタイプの店舗は薄多売といった印象のお店が多いです。こういう店舗はレディースとメンズで明確にエリアが分けられていなかったりして、雰囲気に慣れてしまえば服選びも試着も気軽に行えます。
――古着屋ではないですが、セレクトショップのSTUDIOUS(TOKYO BASE)とかは友達接客を会社ぐるみでやっていたりしますね。LINEなんかを交換して商品の情報などを送る、店外営業をするわけです。店員はそれらも含めて売り上げればバックを大きくもらえる、というので業績を伸ばして脚光を浴びた会社です。私も気になるブランドの情報を送ってもらうようにしていました。楓さんは古着屋以外だと、洋服は普段どこで買っているのでしょうか?
女子生活を一年間もやっていると、靴、カバン、
例えばZARAはスペインのラ・コルーニャ発のブランドとして有名ですが、スペイン女性たちは足のサイズが大きいと聞いたことがあります。そのためZARAの店舗にサイズの合う靴がなくてもオンラインで請求すれば25cmから29cmのような大きなサイズが出てきます。逆説的に、「じゃあ足の平均が大きな国のブランドをネットで検索しよう」と思考すれば他のメーカーから様々な靴が出てきます。このように、洋服を探すときの条件設定、つまりフィルターのかけ方がこの一年間で上達したように思います。
このような経緯から、最近は古着屋で買うことが少なくなりましたが
――さつきはオランダに行った時に、平均身長が180cmの国だから“普通の人”になれたと言っていました。洋服をたくさん買ったといいます。靴はスペイン、洋服はオランダというのは1つキーワードかもしれませんね。ちなみに、好きなファッションのテイストやブランドはありますか?
好きなファッションのテイストはいくつかありますが、
「幼少期の価値観形成」と「ファッションの嗜好」の関係について調査した東大のLGBTサークルの研究があるのですが、幼少期にアニメを通して受けたイメージがファッションの嗜好に大きく影響しているという興味深い調査結果が示されました。少女アニメの主人公はコンパウンドや手鏡などを使って強く美しく変身しますし、ヒーローアニメでは時計やベルトといったアイテムが主人公を戦闘モードへと変身させます。そのような世代毎に異なった変身アイテムが、各世代のファッションの嗜好に表れているというのです。
私はアニメ・ゲーム禁止家庭に育ったのですが、この研究と同様に、そのような生い立ちがファッションにも現れていると感じることがあります。色調の異なるブルーやエメラルドグリーンを組み合わせた服装が多いですが、これは紛れもなく部屋に飾ってあったラッセンの色彩に影響されています。また、黒い服装に大胆な金色のアクセサリーを合わせるコーディネートを好むのですが、これは父の万年筆の黒と金色の見事な組み合わせやピアノの部屋に置いてあったグランドピアノの色彩を連想させます。
――私もそれは感じます。実際に私は子供時代に母親とよく買い物に行きました。お洒落な人だったので、いろんなブティックに連れていかれるわけです。子供心につまらないな、とかまたかとか思う一方で、大人になったら絶対こんな服は着ないと思っていたのです。ところが、最初の頃に来ていたのは親と同じブランドで、同じ商品を買って着ていたこともありました。血は逆らえないというか(笑)。
楓さんと言えば「建築」家でもありますが、ファッションと建築に似た要素はあるのでしょうか?
建築とファッションはあらゆる点で似ていると思いますが、
まずひとつめに、「機能価値」という観点から両者は似た性質を持っています。建物は人間の身体と外部環境の間の調整を行い、外の過酷な熱環境や風環境を人間にとって最適な状態に整えます。これは衣服も同じで、冬の防寒具や真夏のサングラスのように人間を快適な状態に保つためのシェルターとして機能します。
もうひとつは、「情緒価値」という観点があります。建物はそれ自体が情報の塊であり、メッセージでもあります。外観を見ればそれがどういう場所でそういう役割を持った建物なのかということが分かります。例えば、働く場所であればその企業の性格が伝わりますよね。同じオフィスでも銀行は大理石や 密度のある木材を使った重厚な建物で信用感を演出しますが、気鋭のIT企業の場合はクリエイティブさを感じさせる軽やかで明るい外観を好みます。
なので、
――17日はMIQ予選ですが、どのような衣裳で臨む予定なのでしょうか?
具体的なことについては公開することができません。たまにSNS等にドレス衣装のようなものを掲載していますが、あれは練習に使っている衣装です。国際的なコンテストということで日本人の美的感覚が通じないということは確かなので、過去の大会動画を見ながらメイクやファッションの参考にしています。
当コンテストの名前はミスインターナショナルクイーンという名前にも顕われている通り、クイーンを決定するコンテストです。過去の出場者の振る舞いなどを拝見しても、ウーマンやガール、プリンセスではなく「クイーン」だというのはかなり重要なポイントじゃないかと考えています。
――ありがとうございました。頑張ってください。