この秋、話題なのがメンズ向けのコスメブレンドがローンチされることです。スリー(THREE)を展開するアクロは「FIVEISM × THREE」というメンズラインをひっさげて大々的に男性が化粧する時代を呼び込もうとしています。17~22日は表参道のゼロベースにてPOP UP STOREも行われるようです。
また、シャネル(CHANEL)も94年の歴史の中ではじめてメンズラインのコスメ「ボーイ ドゥ シャネル」を11月5日から発売予定です。2018年は男性向けメイクアップ元年と呼べるのかもしれません。
ここで注目すべきなのは、こうした動きは「あくまで純粋な男性へ向けた挑戦」であるということです。では、トランスジェンダーの女性にはこれらのアイテムが発売されるメリットはあるのでしょうか?
買い物できるきっかけになるか
「男性向け」と大々的に謳ってくれることはトランスをこれからしようという人や初期の方に買い物のしやすさにつながります。
デパートのカウンターで化粧品を買うのは非常に難易度が高いと言われます。商品展開が豊富で何を選んでよいのかわからず、特有の香り、綺麗なBAさんといった化粧品売り場の雰囲気に圧倒されてしまうという方が多いからです。
そうした中で、THREEやシャネルならメンズコスメもあるしついでにレディース向けのアイテムを買ってもいいだろう、という勇気につながる事は非常に大きな後押しと言えるでしょう。
ネックは価格か
ただ、個人的にネックなのが価格です。どうしても男性向け~となるとニーズがまだまだ少ない分価格が上がってしまいます。以前、男性用カラコンが発売されたときに“中身は女性向け商品と全く同じでパッケージを変えただけにも関わらず”価格は上がっていたという事例もあります。
最初は眉毛やスキンケアで入ってもらって徐々に~という長い目で見た戦略が必要になるでしょうからその間に辞めない長期的な視野での挑戦が求められます。
〇〇向けにさよならを
私が思うのが「男性向けに~」「LGBT向けに~」といったうたい文句に対して根っこでは不平等感があります。特別視されている、世の中に定着していない、〇〇は女性向けであるという価値観に基づいたもの、ということの裏返しなのではないかと。
今後、もしかしたらトランスジェンダーの女性向けに化粧品ブランドが出ることもあるのではないかと思います。そのような場合、“過渡期”としては歓迎すべきではあるが、将来的にはトランスジェンダーだからとか女性だから男性だからといった扱いがなくなること、価値観の多様さを許容する世の中が来れば良いなぁと感じました。
ここから先は一部の興味がある人向けに技術的な話をします。オタク的な内容なので長いです
色とテクスチャーに特徴
私自身まだプレスリリースのみを見ただけで実物を見ていないのですが、男性向け化粧品と女性向け化粧品の違いを画面上で見ると色やテクスチャーに違いがあると感じました。
女性のようにビビッドな赤やカラフルな感じはなく茶色、ベージュ、カーキといった肌なじみのよい色で低彩度領域のものが並んでいる印象なのです。
色彩検定1級も持っているので専門的に言うとPCCSでいうところのダーク(dk)トーン寄りを多く使っているというところです。ダークトーンの印象は「暗い、大人っぽい、丈夫な、円熟した」、つまりは「デキル男」を演出するにはぴったりの色と言えます。
ナチュラルに男性らしい立体感を引き出すというところが主眼なのではないかと感じます。また、質感がマット寄りなものが多いと感じました。例えば、ラメ、パールといった光沢感のある要素は少なくそうした意味でも普段の肌の延長戦上というところでまず勝負してきた感があります。
そうした意味でいえば、トランスジェンダーの女性が望むのは「脱・立体感」であり女性らしい華やかさ、メイクの楽しさを感じられるようなアイテムではないのかもしれません。ただ、この色味と質感が使えるなと思ったことがあります。
ファンデーションやシェーディングに着目
それはずばりファンデーションやシェーディングの類です。
FIVEISM × THREE ネイキッドコンプレクション バー
現在私自身仕事で使用しているファンデーションはだいたいラインでそろえます。どんな肌色の人が来てもいいように、同じファンデーションで色番号が違うものを一通り買うのです。
ところがOLさん向けのコスメブランドだったりすると一番暗い色でもそこまで暗くありません。そのため色黒さん向けに選べるブランドは本当に選択肢が少なかったので、それが1つでも増えることは非常に助かります。
また、バータイプのファンデーションは舞台用化粧品に多く見られるもの。油分が多くカバー力に優れることが多いのですがそこもホルモン歴がまだない~浅い、脂性肌向けには非常にありがたいです。こうした肌タイプの場合、普通のリキッドファンデーションでは肌がファンデーションを吸うとでもいいましょうか、多く塗らないと対応できない場合があるためです。
ただ、年配の女性向けのコスメブランドがそうであるように、そうした肌をお持ちの場合むしろ色白を求めるためにより明るい色の商品が選ばれることが多く「好きな化粧品」と「似合う化粧品」のバランスは見定めたいところです。
FIVEISM× THREE コントゥア バー
また、シェーディングの色味は非常に暗くこれもありがたいです。トランスジェンダー向けの場合、シェーディングは多くは使わないのですが肌の色が暗い場合それより暗いシェーディングの商品がほとんどないといった問題にぶちあたることがあります。
例えば、生え際のごまかしです。ネイティブの女性の場合、生え際に産毛が多く生えておりおでこの形が丸いのですがトランスジェンダーの女性の場合一律にそうとは言えません。そうした生え際のごまかしには髪の毛、肌の色とのなじみを考えると暗くてマットなダークブラウンを主に使う(韓国コスメの3CEをこれまで使用)のですがコントゥア バーの暗い色味は使えるなと感じました。
もしかしたら、男性向けコスメブランドを使うことで今度は逆にトランスジェンダーの女性が落ち込んでしまうかもしれません。実際、舞台用化粧品やプチプラ、韓国コスメなどでも嫌がる人もいます。ただ、良いものは良いのです。今後もし仕事で取り入れていたらそう思っていただけると幸いです。