NAOも開発にかかわった24.5cm~28.0cmまでのパンプスブランド「TUTTI」が、伊勢丹新宿店の出店に続き、名古屋栄三越にて8月31日(水)から9月27日(火)までPOP UP STOREが登場します。
LGBTQ+の方やサイズが大きな女性に優しいサイジングの同ブランド。今回のような靴をなぜ作ろうと思ったのか。同ブランドのディレクター、石鍋氏に取材を試みました。
(インタビュワー:NAO 取材日:2022年4月21日)
--(乙女塾編集部)我々が石鍋さんと最初に出会ったのは4,5年前でしたね。そこから時間が経ちましたが、何がきっかけで大きなサイズのパンプスを作ろうと思われたのでしょうか?
(石鍋)作り始めた当時は靴メーカーにいたのですが、1人でも多くのお客様に喜んでもらえるものは何なのかと考えていたんです。
その中で一番多い意見として、サイズの悩みという内容が挙がってきました。
とあるデータでは女性の靴のサイズは22.0-24.5cmが約90%を占めるのだそうです。つまり(マイノリティである)それよりも小さいサイズと大きいサイズの人たちは切り捨てられてきました。
商品のバリエーションが少なくて、買いたいんだけれども選択肢がない。足のサイズのせいでファッションが楽しめない。そこでサイズで困っている人たちの問題を解決したいと思ってスタートしました。
ーーそれこそSDGsですね。洋服でもそうですけど、標準的な体型でないと切り捨てられてしまう傾向があります。
会社としては悩んでいる人たちがいるのであれば……ということで開発、リサーチまで進み1つのプロジェクトになりました。そこで試作品のための深いリサーチをする段階で乙女塾さんと出会うことになりました。
サイズが大きな女性、小さな女性の悩みは調査できているけれど、トランスジェンダーの方やLGBTの人たちがどういう悩みを抱えていて、買い物できる環境が無いだとか、そうした課題感を知りたかったんです。
ところが、諸般の事情から新規プロジェクトが中止になってしまいました。そのため、最終的に独立して1人でやっていく決意をしました。
ーー驚いたことが乙女塾だけではなく、新宿ダイアログという飲食店などにも足しげく通われていたことです。実は他にも大きなサイズのパンプスを作ろうという動きは少なくないんです。ですが、ここまで本気な方はいなかったように思います。それこそ企画の途中で途絶えてしまったりということも、よくあります。
パンプス自体が冬の時代なんです。ファッションのトレンドがカジュアルに振れて、スニーカーブームもありヒールパンプス離れが起きました。
またそういった背景には、機能性の問題も大きいです。パンプスはフィッティングが大変ですし、疲れやすい。オーバーサイズ全盛の時代でルーズ感、フィット感が求められるのにタイトに履くことを求められる。スニーカーであれば少しサイズが違っても紐で縛ってしまえば何とかなるし、トレンドのファッションがきまります。
今では百貨店でもスニーカーが売られているのですが、今でもパンプスの売り上げは戻っていません。パンプスブランドもスニーカーを作り始めています。でも、お客様が欲しいのは(ナイキやアディダスといった)スポーツブランドのスニーカー、もしくは(バレンシアガなどの)ラグジュアリーブランドのダッドスニーカーです。
そもそもヒールパンプスの工場は今時のそうしたスニーカーを作ることは得意としていないんです。
ーー私も履く機会が以前に比べたら減っています。それでも何か気合を入れたいときやイベントのために絶対に必要なものと思っています。ちなみに製作する際に苦労したことはなんでしょうか?
今回は男女、年齢、性別を問わずに日本人の足のデータの平均をとったパンプスを作ることにしました。
実は、靴の「木型」は毎シーズンアップデートするのですが、そこに(日本人の足にあいやすいとか、時代によって変わってきたとか)何か論理的なものがあるわけではないんです。前シーズンまでに販売実績がある木型にファッションのトレンドなどに合わせて微調整するような形です。
つまり、職人の感性、販売実績に左右されていてフィット感を高めようとか日本人の足のサイズがどうとかそういう何らかのエビデンスに基づいた動きは私の経験上ではなかったんです。
日本人の足のサイズの平均をとって作った靴の木型は「最初、職人さんにとって何かイビツに感じた」そうです。
ーー「履きやすい」とか「安定性」を売りにしたパンプスってださかったり、小学校の時の上履きっぽい感じのデザインになってしまうことも多いと感じています。
はい。なので、履いた時の美しさと履きやすさを両立させることがとても大変でした。
NAOさんもそうですが、試着をすると前回履きやすかったのがデザインが2mm変わるだけでも痛いとかキツイといった印象になってしまいます。そのせめぎあいが最も苦労しました。
ーーパンプスは苦労して履くものと考えていました。私は有名なシューフィッターの元へも通いましたので(昔より)楽にはなりましたが、1日快適に履けるほどではありませんでした。走れるパンプスとかよくありますけど、走れるけど痛くはあるよねって(笑)。
実際に試着した某百貨店のバイヤーさんから「これは履きたくなるパンプスだね」と評価されたのがうれしかったです。
スムースにフィットすると、重心がきちんとのっかり良い意味で履いている感じの余りない状態になります。
ーーエアリーフィットといいますか、それはすごい感じました。すーっと体内に溶け込んでいく感覚とでもいうのでしょうか。今、パンプス履いているなというのを忘れちゃう感覚。
それが一番うれしいです。
ーー最後に改めてお聞きします。パンプス業界に逆風が吹く中でモノを作り上げたその信念は何なのでしょうか?
困っているお客様がいるのであればその人たちの役に立ちたいという思いです。また、リサーチを続けていくとお客様の願望が見えてきたからです。
「普段はスニーカーだけど特別なときはやっぱりヒールが履きたい」「(週に1回)女に戻るためにパンプスを履く」という声を頂いたんですね。
ヒールパンプスを履いてスタイルアップした姿というのはぜひ一度体験してほしいと思っています。
ーートランスジェンダーの中には身長が高いのでヒールは履かないという人も多いと思うのですが、ぜひ一度ヒールの持つスタイルアップは体験してほしいですね。自分ではあまり見られないのですがパンプスは後ろ姿も綺麗なんですよ。
乙女塾としても、今後さらに「TUTTI」関する情報をお届けしてまいります。