今夏、映画『息子のままで、女子になる ~you decide~ 』が渋谷ユーロスペースで公開されると連日満員となるヒット作となった。また当初の予定よりも大幅に長く上映され、劇場は大盛況を迎えた。
公開を終えた今、主演のサリー楓はその様子を振り返り、何を思うのだろうか。以前、サリー楓がトランスジェンダーとして行動を移す最初のターニングポイントは「乙女塾の1日体験コースがきっかけ」と話していた。
そこで、ボイス担当の西原さつきとメイクアップ担当のNAOはサリー楓に話を聞き、今だから話せるエピソードも踏まえ共に当時のことを回想した。
(インタビュアー:西原さつき(ピンク色)、NAO(緑色))
――映画が公開された時の気持ちはどうだった?
映画はとても 反響があって、中には2,3回劇場にお越しくださった方もいて嬉しかったです。
――映画はどのぐらい撮影していたの?
追加撮影を除くと約1年半は撮影をしていました。
映画になることが重要なのではなくて、自分の伝えたいメッセージを伝えることが大事
――撮り始めた時と今とで心境の変化はある?
MIQ(Miss International Queen、トランスジェンダーのための世界的ミスコン)に向けたレッスンをビューティートレーナーのスティーヴン氏にお願いしことがきっかけで映画の撮影に繋がったんです。とはいえ、最初は映画にするという話はなくて、レッスンの様子を撮影していたような感じでした。
(編集部注:スティーヴンに別途取材をすると「あなたは自分が美しいですか?」とサリー楓に聞いたところ「You Decide(あなたが決めて)」と自信のないコメントをしことが映画をとるきっかけだったそう。You Decideと言うフレーズはそのまま英語版のタイトルに使われている)
その時は、世間に伝えたいことがあって、OKを出しました。それと共に、今この瞬間を映画にしていただけること自体が貴重な機会だとも思ったのです。
でも、映画を通して色んな人と会話していく中で、自分でも学んだことがありました。それは映画になることが重要なのではなくて、その中に自分のメッセージを伝えることが大事なんだと気が付いたことですね。
――それって、どんなことなの?
(作品には映っていないシーンだけど)例えば乙女塾のイベントで話した時に、中国人の生徒さんと撮影を進める中で話した内容です。
私がその方に「どうして中国の実家に帰らないのか?」と質問をしたところ彼女が「中国で、トランスジェンダーだと分かると知らない人から石を投げられたり家族から暴行を受けてしまったりしてしまう……だから帰れない」と口にしていたことが印象的でした。
ジェンダーの問題を通じて私も実家に帰らないということはあったけれど、それとは比べ物にならないレベルの悩みがそこにあって……。
そういうことも含めて、ドキュメンタリーを通して国際的に発信しないといけないな、と思いました。
(乙女塾に行くまでは)ファンデーションの上にメイクアップベースを塗っていて……そのぐらい、右も左もわからなかった
――たしかに、そういう生徒さんもいる。みんな各々、大変な思いをしているから、少しでもそんな世の中を変えたいよね。そんな中、改めて聞きたいのは乙女塾に初めて来てくれた時のこと。楓ちゃんは、メイク道具もレディースの洋服何も持っていなかったよね。たしか4〜5年前だったかな。その頃から、今のサリー楓としての活動のイメージって湧いていたの?
いや、そんなイメージは無かったです。ファンデーションの上にメイクアップベースを塗っていて……そのぐらい、右も左もわからなかったんです。道具も洋服も何一つ持っていませんでした。
乙女塾にはそんな状態で行きました。たしか初心者向けの行きやすいコースだったと思います。そこで出会ったさつきさんから、「大丈夫だよ。自信をもって(さつき曰くこれから変わっていくから大丈夫、とのこと)」と言われて、その時に覚悟が決まりました。メンズの服を全部捨てて、近所のアパレルショップでレディースの服を買いました
メイクを習った通りにして、そのうち24時間女性として生活することの楽しさも感じ始めたのですが、同時に女性として暮らすことの困難さも感じ始めました。
パス度(望んだ性に見える度合い)が上がる一方で、男性からの嫌がらせも感じるようになりました。電車に乗っているとちょっと怖いお兄さんに話しかけられたり、繁華街にいけば強引なセクハラやキャッチにあうことです。
自分の中で女性として生活できる喜びと、実際の大変さが交換されていくような時期がありましたね。
――なるほど、性別を移行するって、たしかにそういう大変な時期がみんなあるよね。あ、今思い出したんだけど、別のインタビューで楓ちゃんが「乙女塾の西原さつきさんに『性別を変えることは眼鏡を変えるようなこと』って教わりました」と発言したことがSNSで炎上したことあるけれど……私、そんなこと言ってないはず……。
……。(苦笑)
――もう(笑)。その発言の真意としては「性別というのはアイデンティティの1つだけれど、全てでは無い。だから深く悩まないで欲しい」ということだったんだ。
……なるほど。
映画も等身大の自分自身でいることを心がけています
――楓ちゃんの発言はSNSでいろんな人から注目を浴びるから色々な解釈も起こると思う。でも、実はみんなが思うサリー楓と、私たち乙女塾が思う楓ちゃんって、ちょっと違うと思ってる。
違うかな?サリー楓と名乗っても、キャラを作るとかそういう気とかは全然無いんです。実際に、映画も等身大の自分自身でいることを心がけています。
私のSNSでの発信は少し堅そうな印象を受けるかもしれないけれど。文字だけだし、そう見えちゃうこともあると思います。実際に直接会ってみると、意外と人柄が柔らかいねって言われることも多いんです(笑)。
だから、(実際に会っている)建築業界の人と、ネット上での私しか知らない人とでは捉え方は違うかなと思います。個人的にはSNSでコメントをくださっている方々とも会ってみたいです。
さつきさんが言ったみたいなギャップは、私自身はそんなに無いと思っています。
――なるほど。みんなに楓ちゃんの魅力が伝わると良いな。
(続く)