何故、丸井は“ジェンダーフリー”を掲げるのか。その真意とは?

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26日はファッション交流会へのご参加ありがとうございました。史上最多の会員様に来ていただき、また外部からいろんな人たちが訪れてくれることで活気がすごくある会となりました。何か楽しかったとかお友達ができたとか少しでも気分があがって帰って頂けたのならば幸いです。

さて、実は今回のイベント前にファッションについて話す上でいろんな人たちにインタビューをしておりました。第一回目は交流会にも遊びに来てくださりましたあの丸井さん(以下:丸井)です。

丸井に対してみんな誤解しているのが「トランスジェンダーを助けるために特別視してやっている」というような視点です。ファッションポジウムなんかでも裏で丸井が闇の帝王みたいに後ろにいて何か企んでいるんだろうみたいな間違った指摘もありました。

ところが、他のサイトでのインタビューを見ると顧客ターゲットを広げていく過程で必要だったのが「サイズ」や「ジェンダー」だったという印象があります。そこで、真意を聞きたくインタビューをお願いしました。

写真:乙女塾山岸撮影、さつきと丸井ジェンダーフリーファッションプロジェクトの皆様
 (聞き手:NAO 話し手:丸井 サステナビリティ部 井上様、同 ジェンダーフリーファッションプロジェクト 畔高様、乙女塾 さつき)

井上 これまで、丸井ではサステナビリティ部というものを作りファッションポジウムなどでもご一緒させて頂きました。しかし、会社構造もあり、より現場に近いところで何かできないかということで“ジェンダーフリーファッションプロジェクト”というものを新設しています。

こうしたジェンダーフリーの取り組みは、社長の青井がニューヨークで見た光景が原点になっています。それは、ある老夫婦が同じラックにかけてあるTシャツをお互いに似合うかどうかあてていたというものです。日本では男物はメンズのフロア、女物はレディースのフロアと別れていますから大変驚いて「これは面白い」と。

--そもそもなのですが、レディースはなぜサイズ展開が2-3種類しかないのでしょうか?

畔高 女性の標準体型に照らし合わせるとそれで8割の人をまかなえてしまうからです。アパレルの世界では在庫を抱えることはリスクとなります。サイズ展開が増えることによるリスクを減らすというのが既存のビジネスモデルでした。レディースの世界はトレンドの移り変わりも早いですし、売れなければ不良在庫を大量に抱えてしまうことになります。

さつき 実際に私はある程度女性の体型になってからレディースの洋服を買うようになりました。しかし、最初は大きなサイズがある通販等がメインでした。可愛いものはサイズ展開がないし、買ってみたら色や生地感が違ったり苦労がありました。

--メンズはもっとサイズ展開が豊富ですがそれはまた違う考えなのでしょうか?

畔高 いえ、メンズでも同じです。体型の幅があるから3-4サイズになるだけで“8割程度の人をまかなう”という考えは変わりません。

丸井のwebサイトより。サイズタウンがあり6Lまでのサイズを取り扱っている。

--丸井は今では豊富なサイズ展開を持っていますがそれはなぜですか?

畔高 これまで残り2割の人たちは切り捨てられてきました。そこで丸井が最初に「何とかしよう」と考えたのがその残り2割の人たちです。小さいサイズで言えば3号から洋服をご用意しています。最初は単純にサイズを小さくしたり大きくして売っていました。ところが体型が小さい人、大きい人には単純にサイズを縮小・拡大しただけでは悩みが解消できませんでした。「二の腕が動きづらい」、「胸のところがきつい」とかそれぞれの体型ならではのご意見を取り入れて、形のアップグレードを重ねながら進めてきました。

丸井のシューズ

ーーそうしたサイズ展開はリスクにならないのでしょうか?

畔高 勿論27cmのパンプスが大ヒットするかというと23cmの売り上げにはかないません。実際には、現場で発注数をコントロールするなど試行錯誤を経てなるべく在庫リスクにならないような取り組みは行われています。

井上 全人口の1%の人たちがターゲットと考えても100万人以上の人たちがいるわけです。そう考えれば十分にビジネスになると考えました。とはいえ、まだまだ丸井がすべての人に利用していただける幅広いサイズ展開に力を入れていることを知らない人が多いと思います。もし知ってもらえればもっとチャンスになるんじゃないかと思います。

さつき サイズってメーカーごとにまちまちだから「入る」ブランドってずっと使うんですよね。自分の好きなテイストがあってもそのブランドを使って自分のテイストに合わせて着るとか。

ジェンダーフリーファッションプロジェクトの表札

ーーそして、次は“ジェンダーフリー”と。

畔高 私はレディースアパレルの世界で過ごしてきましたが、丸井のサイズへの取り組みがある程度ひと段落してやりきったなという思いがありました。ところが、このジェンダーフリーファッションプロジェクトの公募を見て「これだ!」と。

例えば、MtFトランスジェンダーが女性の服を着るためには大きなサイズ、小さなサイズを作った時のようにそのままの形では難しいかもしれません。そうした方へ向けたチャレンジをしたいと考えました。

現在は集まったメンバーで「ジェンダーフリー」とは何か?という定義づけから始めています。実際、混同しがちになるのが「ジェンダーレス」と「ジェンダーフリー」は違うということです。

黒と赤のランドセル

我々はその例えとしてよくランドセルを使います。これまでランドセルは男が黒、女が赤をつけなさいと決まっていました。その後にジェンダーレスな発想をする学校では全員が茶色で統一したり青のカバンを持ったりと男でも女でもない中性という概念を作りました。

そして、ジェンダーフリーとはそうした色々なランドセルがある中で「皆が好きな色を使えば良い」という状態になることだと考えています。

さつき 私が今日はいている靴は売り場がただサイズ展開だけの分類で男とか女とかわかれていないんです。だから非常に買いやすい。

ファッションポジウムでの丸井ブース、こちらもサイズという概念だけで靴が置かれている

ーー私が好きなデザイナースブランドの世界では男女で同じアイテムが売っている時も少なくありません。それはジェンダーレスなのかフリーなのかは置いておき良い傾向だと思います。例えば、26cmのブーツはメンズ館にあるけど25cmならレディースフロアに置かれている。そのおかげか男性(女性)でもレディース(メンズ)を買う人が多いので“入りやすさ”になりましたが、そもそもおかしな話ですよね。

井上 これまでファッション業界は色んなセグメントをしてきました。レディース、メンズをさらに細かくしてフロアを「ヤング」「ミッシー」「ミセス」と年代別で区切ったり。「ヤングアダルト」なんて言葉もありましたね。

工場のイメージ画像

そもそも製造段階の工場ですら「男物のスーツができる工場」と「女物のスーツができる工場」とで分かれていました。例えば、男物の工場ではレディースは作れなかったんです。

ーーその名残なのか日本だと30代の女子が「10代の頃の洋服はもう着れない」とか「あのブランドは若いから無理」みたいな風潮がありますよね。自ら顧客が「〇〇歳の〇〇性はこういう服を着なさい」と画一化されたがっているようにも見えます。

年齢というセグメントはジェンダーフリーを考える上で近しい視点だと思っています。何故ならば、今ではそうしたフロア分けはだいぶ減ったからです。それはファッション業界が何か取り組んだことなのでしょうか?

井上 不況になったからだと思います。100あったミセス向けブランドが立ち行かなくなり50になり20になり。そう考えると30代女性とかのターゲットではやっていけない。幅広い年代に支持していただく必要性にかられてですね。

アメリカでは多様性をみんな知っています。みんな違うということは知っているうえで差別がある。日本ではまだみんな違っている、違っていいということが知られていない。ただ、国民性から考えると多様性を認める社会ができてもお互いを差別したりしないのではないか?という期待があります。

ーー 「レディースフロア」、「メンズ館」とかそうした区切りは何故存在しなくならないのでしょうか?

井上 単純に慣習です。誰もやっていない中で企業であるメーカー側もリスクを恐れています。例えばレディースアパレルブランドに男性が入ってきたときに店員はOKでも、それが嫌なお客様に何か言われたらどうしようとか。

だから、結局デートでも女性が洋服や下着を選んでいる中でつまらなそうに外で待っている男性という構造ができてしまいます。アメリカでは男女共有エリアみたいなゾーンもあります。

そう考えると、ファッション業界は「構造不況」に陥っているなと感じます。だから今までの考えを捨ててゼロベースで進めないといけないと思います。

まずは「場」じゃないかなと。

ファッションポジウムでのさつき、ファッションについての討論も行われた。

ーー実際にジェンダーの問題を差し置いても、「場」がとても大事だと思います。私が良く思うのがRPGの世界に似ているなということです。男性はレベルが低い状態と一緒で「入って良い範囲が狭い」んです。この世界はこんなに自由なのに立ち入り制限区域がたくさんある。おばちゃんは男子トイレに入ってくるのに(笑)。

それ以上に男性の世界、女性の世界でも見えない壁があります。子供の頃、大手百貨店の洋服フロアに買いに行くことはとても勇気のいることでした。「カッコイイ人、可愛い人しかいない」んじゃないかと(笑)。それこそ、「洋服を買いに行く服がない」。

さつき 生徒さんで接客の問題をよく言われることがあります。アパレルでは店員が話しかけに来ます。自分なんかが買いに行って良いのだろかとか、話しかけられた時に声をどうしようとか…。私は学生時代にアパレルのアルバイトをしていたのですが「みんな持ってます」というと買うと教わりました。

畔高 実際に、女性は「可愛いですよね~」みたいな共感を持つような言葉を使います。男性は逆に絞り込む接客をするというか、ズボンを買いに来たという命題に対してでは丈の長さは?太さは?とかお互いに協力して選択肢を狭めて納得したら買っていく…というような。

性別は関係なく、より1人1人に合わせた接客が必要になると思います。だから、ジェンダーフリーとなると接客の部分をどうするのかという課題はありますね。

井上 この間、話を聞いたFTMの人が言っていたのですが、「HE」と呼んだ方がいいのか「SHE」と呼んだ方がいいのかという問いに対して私は「THEY」と呼んで欲しい。ただ、私の場合はそうであってみんながそういうわけではない。と言っていました。

大事なのはLGBTやジェンダーフリーといってもトランスジェンダーの人たちがみんな同じ考えかというとそうではない。一人ひとりに向き合う必要がありますね。

そういった意味では乙女塾は“聖域”だと思っているんです(笑)。

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