最高裁「違憲」判決に伴うトランスジェンダーへの「誤解」と「実情」

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25日にお伝えいたしました、トランスジェンダー(性同一性障害の方)が戸籍上の性別を変更するために生殖能力を無くす手術を事実上の要件とした「性同一性障害特例法(2004年施行)」の規定が憲法に反するかどうかが争われた家事審判について、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は「違憲で無効」とする初判断を示しました。

このことは世間での反応も大きく、そして否定的なものや誤解されているものも多くありました。当事者を多く含む組織として我々からその実情をご説明させてください。

誤解1:心が女性と言えば明日から女性になれる

最高裁の裁判は「違憲で無効」という内容のみです。今後、裁判を受けて性同一性障害特例法の見直しは行われていくでしょう。

今回焦点となったのは「四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」ですが、まだ「五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」という条件については未だにどのように扱われるかは分かっていません。つまり、四だけが見直されたとしても「手術が必要無し」という状況にはなりません。矛盾が生じてしまうため全体的に見直されるはずです。

しかし、実際に身体を変えるまでには長い道のりがあります。性別に関する悩み、そして精神科へ通い診断書の獲得、ホルモン治療、そして顔や身体をより望む性への手術です。それらを経た先に性別移行手術(以下、SRS)があります。

そのため、どのように法律が変わっても専門家の診断を含む長い道のりが必要なことには変わりがありません。
(中には即日で診断書が取得できる病院が存在するという批判もあるのですが、そちらはイレギュラーなケースです)

誤解2:女子トイレや公衆浴場に男性器がついた状態の人が合法的に入れてしまう

いわゆるトイレ問題、温泉問題ですがほとんどのトランスジェンダー当事者は「トラブルが起きないように」選択をしています。

性器の状態がどうであれ、毎日の習慣の中で社会的にトラブルが起きたくないのは誰でも同じです。そして、男性か女性扱いかを一番敏感に気にしているのはトランスジェンダー当事者本人です。

世間の反応は様々、で批判的な意見を唱える人の中でも「手術を行えばOK」「容姿次第」「DNAレベルで判断」などと、その意見は多様です。

しかし、実際はSRSを終えても容姿などに自信が無く、男子トイレや障がい者用の公衆トイレを使用するMtFトランスジェンダーもいます。また、手術を終えていなくても明らかに男子トイレに入るには違和感のあるMtFトランスジェンダーもいます。

温泉のような場所では「SRSを終えてから」という認識が一般的です。

しかし、ルッキズム的な物差しというのは人により異なります。自己肯定感とも異なります。性別移行は終わっていて性別適合手術も済んでいるのに、いつまでも自信が持てず障がい者用(または多目的用)トイレや、男性風呂を使用する人もいます。あるいは過度に自信を持ってしまい突撃してしまう失敗談もあるかもしれませんが、手術前は貸し切り風呂のみという人が多いように思えます。

どちらにしても「トラブルが起きないように」「一般層の迷惑にならないように」という心情を多くの当事者が持っていて、最も気にしている内容であることは知ってほしい事実です。

誤解3:なぜ当事者ならすぐにSRSの手術をしないのか?

これはSRSを終えた当時者から挙がる批判にも含まれます。「百万円すら用意が出来ないのか」「死ぬ覚悟でやるべき」「私は頑張ったのだからみんなもできるはず」といった意見です。

どこまで性別変更を望むのかは人により変わりますが、生まれた性への違和感がある人にとっては経済的、社会的に許されるならば生まれながらの女性に可能な限り近づきたいと思っているケースが多いです。

しかし心の中ででそう願ったとしても、それが叶わない苦しい事情がトランスジェンダーにはあります。

・円安傾向の影響を受けSRS料金は値上がりを続け、タイで手術する場合には300万円程度が必要なこと
・子孫を残す可能性を捨ててしまうこと
・トランスジェンダーには貧困が多く、毎月の生活苦に悩んでいる層が多いこと
・ダブルマイノリティー(他の病気を併発していること)が多いこと
・手術後に回復期間(ダウンタイム)がありその間、休職する必要があること
などが理由として挙げられます。

また心臓疾患など持病を持つ(またはBMIが高い)場合、全身麻酔の手術がNGのケースも増えておりSRSは全ての人が受けられる状況ではありません。

繰り返しになりますが経済的・社会的に許されるならば、手術を受けたいと思うのが一般的なのです。しかし実情はホルモン注射ですら自費診療のため毎月5000~1万円程度の自己負担をしてその費用を捻出することで精一杯の人が多いのです。

SRSが性別変更の条件にならない時代が来たとしても「性別移行のハードルが低い=容姿の移行度を求めないこと」ではありません。ホルモン治療、外科的治療などが保険診療にならなければ社会的にトランスジェンダーが安心して過ごせる状況ではありません。

今回は代表的な誤解を3つ挙げました。依然としてこうした誤解は大小を問わずたくさんあると思いますが、少しでも知って頂けると幸いです。

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