「バックラッシュ」で動揺しないための「たったひとつの大切なこと」

  • みなみ
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    乙女塾

みなさんは「いいできごと」が続いたとき「この先もずっとこの調子でよくなるはず!」と思うことはありますか? それとも「ちょっとうまくいき過ぎでは?」「何か悪いことが起こりそう」と不安になることはありますか?

そういった不安に直面するのは、あなただけではありません。  実はわたしたちも、同じように不安を抱えながら日々を過ごしています。 目まぐるしく変化する社会の中で、立場を問わず多くの人が不安を抱いているのです。

そんな中で、あなたが不安に飲み込まれそうなとき、心の安全のために「思い出してほしいこと」があります。

この記事では、わたしたちLGBTQをとりまく最近の動きとどう向き合うか、「調子がよ過ぎるとき・悪過ぎるとき」でも心のバランスを保ち、不安を和らげるための「たったひとつの大切なこと」をお伝えします!

過去に、同性婚裁判の原告団に関する記事に、このようなメッセージが届きました。

「大変なのはこれからよ。これからバックラッシュに耐えるとき。アメリカの時も、ヨーロッパの時も大変だったって、現地の仲間達が言ってたから」

わたしのよく知る仲間からのメッセージでした。わたしはこの内容に、ひとことお返ししたのです。

「――わたしたちも同じかもしれない」

あなたは、先ほどのメッセージにあった「バックラッシュ」ということばを知っていますか?

「バックラッシュ」とは、日本語で「反動」や「揺り戻し」を意味する社会学用語です。社会学の分野では、おもに人種やジェンダーなどの社会的弱者に対する平等の推進や地位向上などに対して「反発する動き」といわれています。

教育分野でイメージできるものとしては、「ゆとり教育」が挙げられます。 かつての過酷な受験戦争の反省から「ゆとり教育」に移り変わりますが、現在は「ゆとりは悪」として評価が一転します。そして振り子が戻っていくように、また授業時間が増えて「脱ゆとり教育」へと変わっていったようなものです。

 

さて、2023年6月の時点で、同性婚に関する裁判が大阪を除いて、すべての地裁で勝訴となりました。これから高裁が始まり、おそらく最高裁へと続いて司法の判断を仰ぐことになるでしょう。そして賛否両論とはいえ、LGBT法案が可決してこれから運営されようとしています。経産省の裁判の結果も当事者側が勝訴となり、ニュースでもたびたび取り上げられてきました。

この状況で「このままトントン拍子で、もっと安心できる社会になるのかも」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実はこういった時に、「反動」「揺り戻し」が起こりやすい状況で、注意が必要なのです。

価値観が多様化するということは、「全員が納得する結果につながりにくくなる」ということでもあります。 どれだけ「いいこと」のように思えても、その「いいこと」によってしわ寄せを受ける方々も少なからず巻き込んでしまうのです。

なぜなら「人権」を求めることは、時として「他の人権」との矛盾や衝突が起こってしまうことでもあるから。 

そして何より、急激な環境の変化は、立場を問わず社会的な弱者が最も負担を多く受けてしまうことが避けられません。 社会に大きな変化が起きるときは、当事者以外の方からも疑問の声が上がるのも、時代の変化の中で必然なのです。

一例として、今までの好意的な流れに逆行するかのように、ロシアでは性別変更を原則禁止する法律が成立し、中国では北京LGBTQセンターが活動停止を発表する事態となっています。

また日本国内でも、トイレや入浴施設でのトラブルと混同する形で、「女性や子供の安全」への不安が解消できないとして、反トランス的な法案を提出しようという動きもあります。

このような状況で、あなたは「この先どうなってしまうのだろう」と不安を抱いているかもしれません。 新型コロナ流行の時のように、ひとりではどうしようもない力に押し流されるしかないのでしょうか?

もちろん、そんなことはありません。きっとあなたは無力ではないのだから。

どんなに天気がいい日でも、いつか天気は悪くなります。

そしてどんなに天気が悪くても、いつか天気はまたよくなるはずです。

世界の動きとして、アメリカのトランプ政権やフロリダの州法のような「揺れ戻し」も現実として起きています。けれど全体で見渡して考えると、世の中は少しずつよい方向に進んでいることは間違いありません。

ここ最近はわたしたち当事者に対して、SNSで攻撃的に思える発信が活発となっているようで、少し心配しています。しかしここで忘れてはならないのは、「発信している側も、不安なのかもしれない」という視点です。

人間は不安に取り巻かれてしまうと、その不安から「どうにかして抜け出したい」と必死にもがき、そのことで頭がいっぱいになってしまいます。

その結果、「溺れる者はわらをもつかむ」ように、真偽不明の情報にも飛びついてしまうのです。

それに、当事者でない方々にとって、私たちがどういった人なのか、なかなか知る機会がないことも、誤解や偏見が解消しにくい一因です。

気心の知った者同士ですら、お互いが冷静でないときは誤解やトラブルが起こりがちです。 それならばなおさら、お互いがどんな人かをよく知らず、価値観のすれ違いが起こりやすい話題はなかなかまとまりにくいものです。

「どうして分かってくれないんだろう」と思うところですが、社会不安によって「相手も不安ゆえのパニックの可能性」や「悪意によるものとは限らない」ことは、忘れずにいてほしいことです。

外の世界がいろめきたったとき、「情報の嵐」からあなたの身を守るために、大切なことがあります。
それは「不安をかき立てるような情報から距離をとる」ことです。ニュースなどで報じられる情報には、人を不安にさせたり、感情的にさせる要素が多く含まれています。ネガティブな情報で感情が押し流され、あなたの心身に負担が生じるというのは元も子もありません。

そのためにはSNSやテレビ、新聞から適切な距離を取ることです。食べ物にたとえるなら「体調が悪い時には、刺激物を控える」ようなイメージです。

特にTwitterはレコメンドエンジンによって、誰か1人でも攻撃的な発信をしている人をフォローすると、似たような情報で埋め尽くされてしまうこともあります。

そのような仕組みから、意図しない形でタイムラインに否定的な発信を目にしてしまうことがあります。 そのような場合に「相手を説得しよう」と不用意に反応してしまうことは、リスクをともないます。もしかすると、相手も不安なのかもしれません。 あってほしくないことですが、悪意を持って挑発している可能性も否定できません。 お互いが冷静でない場合、かえってすれ違いがこじれてしまうことがよくあります。

このような社会不安によって、多くの人に不安やフラストレーションがたまっている時には、あなたの安全を第一に行動してみましょう。

もしもあなたの心がざわめき、不安に飲み込まれそうになってしまったときは、「手の届く範囲の人間関係」をまず安定させてみましょう。親しい方やご家族につらさを理解してもらえることは、不安を和らげる糸口となります。

身近に理解者がいない場合は、同じ悩みごとを共有できる場に相談してみてはいかがでしょうか。乙女塾の交流会や、プライドハウス東京さんのトランスデーのように、安心できるスペースもご用意がありますから。

実はわたしも、ふとしたときに「希望を持って日々を過ごしたい」と思えるよう、リラックスできる「心のオアシス」でときどき気分転換をしています。

私の「心のオアシス」のひとつ、ソニープラザのプチプラメイクコーナーに行くことがあります。 日頃の悩みから解き放たれ、「どれがいいかな? これだとどんな自分になれるかな?」と、いろいろと悩みながらも、可愛くなった自分の未来像を自由に思い描くのは、わたしの日常生活を彩る貴重なひとときです。

最後に、あるエピソードをお話しします。
わたしが落ち込んでいるとき、心配してくれた友達の「ある行動」が救いになったことがあります。友達はそのとき、わたしに高橋優「福笑い」という楽曲を教えてくれたことで、わたしは笑顔を取り戻せたのです。

「たったそれだけ?」と思われた方もいるかもしれません。 もちろん、「福笑い」そのものが救いになったのではありません。 友達のその行動をきっかけに、これまでの友達との「ささやかなできごと」の積み重ねから「わたしという存在」を再確認できたためだと考えています。

私のつらさを理解してくれて、存在を認めてくれる人がいる。

私のつらさを、自分のことのように考えてくれる人がいる。

立場や考え方が違っても、時にはすれ違うことがあっても、お互いが尊重し、そして時には譲り合える。

もし相手が困っていたときは、私も何か力になりたいと思える。

そしてこれからも、お互いに補い合っていきたいと思える。

そのように、お互いがお互いを尊重し、私と相手との双方にメリットを実感できるようになれたなら……。

価値観の異なる相手どうしでも、相手の大切なことを大切にできるようになれたなら……

そうすれば、もっとより多くの方々がすみよさを感じられる社会になる。わたしはそう思ってやみません。

そのためにはまず自分自身が、心にも体にもゆとりを保てていることが大切です。あなたもまずはご自身の安全をしっかり確保してみましょう。

それでも、どうしようもなくつらくなったら、「よりそいホットライン」の4番への電話をかけるという手もあります。

【よりそいホットライン】
電話番号 0120-279-338
※ 岩手県・宮城県・福島県からは、0120-279-226

 

嵐が吹き荒れる中で、吹き飛ばされないように物陰で縮こまることも、身を守る行動です。

乙女塾は、いつもみなさんの味方でありたい。
理想だけのきれいごとだけでもなく、現実に直面して泥をかぶってでも 、同じ悩みやつらさを抱える方々のここをに寄り添えることができたなら……

あなたのつらさを、少しでも和らげることができることを願って。

 

 

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