映画『老ナルキソス』を観てきた 〜『片袖の魚』監督が描く、老いたゲイの世界〜

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    乙女塾

「トランスジェンダーの女優」として知られるイシヅカユウさんが主演し、話題となった映画『片袖の魚』。トランスジェンダー女性が受ける「マイクロアグレッション(差別や傷つけることを意図せず、相手の心に影をおとす発言をしてしまうこと)」を描いた作品で、トランス女性の当事者が他ならぬトランス女性を演じたことでも注目を集めました。

この作品でメガホンをとった東海林毅監督が、2023年に新たに発表した初の長編作が、この『老ナルキソス』です。 同作品は数年前に短編として公開され、「レインボー・リール東京」など数々の映画祭で高い評価を得ていました。このたび長編の作品となっただけでなく、内容の変更によってさらに重厚な人間ドラマへと洗練されていました。ここではネタバレをせずにレビューをしていきます。

今作品は、「老いたゲイ」でナルシストな絵本作家・山崎(田村泰二郎)を主人公として、劇中では「ゲイ文化」が緻密に描かれています。その世界を知らない人はびっくりするかもしれません。 しかしこれはあくまで「舞台」として設定されたものにすぎず、本当のテーマは別のところに存在しているのです。

老いによって「自分の容姿が衰えていくこと」に耐えられない主人公の「山崎」は、モテなくなってしまった自分を癒やすために、若いウリセンボーイ(男性を相手にする青年)の青年「レオ(水石亜飛夢)」を買います。しかし、この二人がお互いのコトを知るうちに、山崎はレオに「恋心」を、レオは「まだ見ぬ父親の面影」を重ね、お金の関係を超えた特別な感情が芽生えていきます。

一方、レオには「パートナーシップ」を求めてくる同棲中の彼氏がいるのですが、「パートナーシップ」も「山崎との養子縁組」もピンとこないのです。実はレオは、幼いころから「家族」というものを今まで経験したことがなかったのです。「そもそも家族ってなに、家族って必要?」レオは葛藤します。

さまざまな葛藤を鮮烈に描きながら、山崎の過去を少しずつひもといていくような旅を経て、それぞれがそれぞれの新しい関係を手に入れていく。この映画は、「家族とは何か?」という問いと葛藤を描いた作品なのです。後味もよく、さわやかなエンディングを迎える映画でした。

たしかにこの作品はゲイの話ですが、わたしの周りには家庭を持ち、子育てをしているセクシャルマイノリティがいっぱいいます。

同じように、トランスジェンダーも無関係ではありません。トランスジェンダーにも家族が居る人や居ない人、作りたくない人も含めていろいろだと思います。セクシャルマイノリティには「子どもが作れる、作れない」という問題もありますので、余計にセンシティブなテーマでもあります。

そういった視点て観ると、より味わいが深まっていく作品。 それが『老ナルキソス』だったのです。

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