松本珠奈さんインタビュー「男女平等の社会を実現することはトランスジェンダーにとっても大事」

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今シーズン、サッカーJリーグで初めてMtFトランスジェンダーであることをカミングアウトされた方がいます。2022シーズンまでY.S.C.C.に所属していた松本珠奈さんです。珠奈さんは「アスレティックパフォーマンスコーチ」つまり選手ではなく、指導者の方です。

女子サッカーのような例外を除いてスポーツ界では全体的にLGBTQ+に関して寛容とはいいがたい土壌があります。実際、過去にゲイを告白したサッカー選手は数名います。しかし、1990年代にはじめてゲイを告白をしたジャスティン・ファシャヌ(イングランド)という選手は黒人とゲイとのダブルマイノリティによる差別に苦しみ、37歳で自らの命を絶っています。

それから約30年の月日が流れ多少は世相が変わっているところもありますが、まだまだ難しい問題でもあります。そこで、スポーツ、そしてトランスジェンダー当事者である珠奈さんに話を聞いてみました。

(インタビュー、撮影等:NAO 取材日:10月21日、編集部注:取材後にY.S.C.C.との契約は今季で満了になることが発表されました。)

ーー(乙女塾編集部、以下略)MtFトランスジェンダーの場合、「子供のころおままごとをしていた」とか「女の子の洋服を着たがっていた」とか女の子らしい遊びをしているものという見方をされることがあります。「スポーツやっていたのに何故?」と言われてしまうような土壌です。珠奈さんは子供時代をどのように過ごされていたのでしょうか?

私も子供のころおままごとをしていたようなことはありませんでした。ですが、自然に女の子の役割をしていることが多かったですね。

両親は日本人ですがドイツで生まれ育ちました。母親がピアノの先生だったので、私もずっとバイオリンをしていました。それが女性的とみられるかもしれません。

子供のころはとても痩せていてガリガリでした。運動はするけれど決して“やんちゃ”ではなかったです。12歳で陸上を始めて跳躍などを得意にしていました。14歳からは(プレイするのと平行して)陸上の指導も始めました。

16歳になるときにバイオリンでプロ転向のオファーがありました。しかし、プロでやりたいとは思いませんでした。

その時は何になりたいかは決まっていませんでしたが、アメリカとドイツでコーチングライセンスやスキルを上げた後に、日本に拠点を移し両親の母国で指導者として陸上、サッカーなど競技を問わずコーチをしています。

今は37歳ですがすでに指導者歴22年になります。大ベテランです(笑)。

ーードイツ生まれだったのですね。ドイツではLGBTQ+やジェンダー観についてはどのようにとらえられているのでしょうか?

私が日本へ来て感じたのはジェンダーバイアスが強い国だということです。ランドセルの色や学校の制服もそうです。

ドイツは固い国と言われていますが、日本の真面目さに比べるとさほどでもありません(笑)。学校の制服は私服ですし、みんな生まれつきバラバラですから髪の毛の色や長さで何か言われることもありません。

実はドイツでも制服を導入すべきか?といった議論はディスカッションの授業で話されることがあります。制服はコーディネートを考える手間がないしいいこともたくさんあります。学校や国で議論になることもあります。しかし、ほとんどの学校では制服が導入されることはありません。個性を大事にする国ですから。

ーー日本ではジェンダーフリーな制服の動きがある一方で、校則で髪の色や長さも制限されているケースがあります。
私は子供のころからずっと髪の毛を伸ばしていてロングヘアでした。今の長さでも人生で3番目ぐらいの長さです。

ドイツでは、陸上競技をしていても長髪で何か言われたりはしません。

例えば野球のピッチャーが投げた後に長髪が邪魔で前が見えないとか守備ができないとか、パフォーマンスに影響があるならば何か言われるかもしれません。

私も、競技にコーチと選手として本格的に取り組むようになって髪の長さが邪魔にもなり短くしたこともあります。

でもそうでないなら自由です。

ーーそもそも海外では部活という文化がないと聞いています。

ドイツの子供たちは地域のクラブチームに参加します。私はヴェルダー・ブレーメンの陸上チームに在籍していました。一時は、サッカーでもブンデスリーガ優勝を果たした強いチームで、子供のころはよくチケットをもらって見に行っていました。

部活ではないのですが、同じくサッカーの強豪で知られるレヴァークーゼンのように地域の学校と連携していてテストの点数が悪いと先生に言いつけられるチームもあります。点数が悪いとクラブチームの練習に参加できないです。

ーーそこまで行くと日本の部活みたいですね。クラブチーム文化のいいところはどんなところでしょうか?
大事なことは、子供たちが学校とクラブチームという2つの世界があることです。

私は友達もいたけれど、トランスジェンダー以前に日本人というだけでマイノリティです。

学校の方が(クラブチームよりも)居心地がよくなくて「仕事だ」と思って過ごしていました。それでも放課後はクラブチームで陸上の仲間たちがいて楽しい日々を過ごすことができました。

ーーRe-bitさんが10代のLGBTQ+ユースは約半数が自殺を考えたことがあると発表して話題になりました。
先ほども述べましたように、日本はジェンダーに関してバイアスが強いと感じています。その根底にあるのは、ジェンダーギャップが世界で120位と言われている通り性別の格差があることだと思います。

トランスジェンダーをカミングアウトすることは、出世を諦めたり、仕事をやめたりしなくてはならない場合があると聞いています。しかし、もし女性の地位が男性と平等ならばそういう事態にはなっていないのではないかと思っています。

男女平等の社会を実現することはトランスジェンダーにとっても大事なのではないかと感じています。

ーーご自身は働きながらカミングアウトされたそうですが、周りからの反応はいかがでしょうか?

特に何か特別なことがあるわけではありません。私は実は2回目のカミングアウトなんです。2009年にもカミングアウトして一年ほどRLE(実生活体験)をしました。当時は色々あって一度辞めましたが、今回は徐々に移行している中で無理があるといいますか、そろそろ言った方が良いなと思いカミングアウトしました。

私は「自分はトランスジェンダーなので特別扱いしてください、女性扱いしてください」というようなことは言わないようにしています。

勿論、女性扱いされるのは嬉しいです。でも、強要はしないという事です。実際、選手やスタッフがうっかり前の名前で呼んでも嫌な気持ちにはなりません。

ーーありがとうございます。そして、カミングアウトしたらYahoo!ニュースに掲載されるなど思わぬ反響がありましたね。次回はそこから先のお話をお聞かせくださいませ。

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