前田医院の思い出

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高田馬場にあった前田医院という病院を覚えている方はいるだろうか?

2016年春に廃院してもう4年になる。

電気があまりつかずに薄暗い病院内、看護婦もいないときが多い、髪がぼさぼさでマンガの博士のようないでたちの先生

「美容の病院とはエステのようなお姫様体験が必要である」というような体裁を気にする人には決して勧められない。それでも病院は常に満員、予約が半年先までとれず夜遅くまで診察に追われていたという。

理由は価格、技術、そして人柄である。

決してコミュ力が高いわけではないがにじみ出るいい人感と研究者気質。そう、私が好きなタイプの医者であった。

私は若い頃にここでほくろをとってもらった。何せ1個数百円なので10個とっても数千円、つまり顔全部のほくろ、ついでに薄いしみをとっても1万円いかないのである。

裏技的に予約をせずに行くとその日の最後に見てくれるのでそれをいいことにふらっと通っていた。

チャームポイントとなりそうな箇所を残して顔のほくろの多くを除去した。

やってもらった直後の頬。当時のカメラの画質が悪いので見づらいが点在する薄い茶色みたいなのがレーザーの痕。

この病院でイボをとってもらったときは驚いた。価格表にないレーザーが適応だったこともあり確か1個100円くらいだった。先生が「こんなものは昔は蚊取り線香でとったんだよ、xx円でいいよ」みたいなセリフは今でも覚えている。

先生はレーザーの機械作りが趣味。古いマシンを改良して最新のマシンと同等かそれ以上の効果にすることが身上だった。

実際、私は大事なところは先に他の高い病院で消していたのだが治り具合の良さや効果は前田医院のが上であった。

お金を儲けるよりも先生の趣味の機械作りの実践の場だったのだろう。

ちなみに薬を診察の末に処方することも行っていたが、なんと条件付きで自己注用デポー(女性ホルモン、男性ホルモンの注射)とかも取り扱っていた。

美容に興味のあるトランスジェンダーからしたら、ほくろやしみがとれてホルモンの入手先にもなるとうってつけの需要があったそうだ。事実、待合室ではたまに知り合いと出くわした。ひっそりとみんな通っていたのである。

当時、トランスを受け入れてくれている病院は今よりさらに少なかった。さらに2015年に性別や名前に配慮があり大々的にトランスを受け入れていた六本木のアーバンライフクリニックの院長が中国人へサノレックスを売っていたことで逮捕され廃院になってしまった。この病院も右翼思想を前面に出した上でGIDを受け入れるという飛びぬけて謎な病院だったが、待合室は常に当事者で満員で人気があった。

最後にほくろをとってもらった後の頬の写真。当時はやせていたので頬もこけていた(笑)。仕上がりはとてもきれいである。

何故このような思い出話をするのかというと、最近インターネットの通販で「家庭用レーザー機器」が売られているからだ。

資材のカッターのような用途のものもあれば、中にはほくろやシミを消すためのレーザーペンみたいなものもある。そしてそれらの価格は1000円からと非常に安い。

だが、レーザーは一歩間違えれば危険なものだと私は思っている。日本で売る許可があるのか非常に怪しい。

せめて顔にあてるレーザーだけは医療機関を受診してほしい、と思っている。けれども、2020年の今多くの病院でほくろを取ると1個数千円から数万円になる。

そんな中、お金がなくても通えた前田医院は薄暗いけれど我々にとって確かに光り輝いていた。せめて安らかに天国で趣味の機械作りを楽しんでほしい。

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